マルタ銀行家協会(MBA)の新しい議長に選出されたマルセル・カサール(Marcel Cassar)氏は、仮想通貨やブロックチェーン、人工知能(AI)などの新しい技術が、銀行業界に与える影響について自身の考えを詳しく解説しました。
マルセル・カサール(Marcel Cassar)氏の見解
APS Bankの最高経営責任者(CEO)であるマルセル・カサール(Marcel Cassar)氏は、マルタ銀行家協会(MBA)の次期議長に選出されています。彼は新しいマルタ銀行家協会の議長としてindependent.comとのインタビューに答え『銀行部門を揺るがす新技術である、ブロックチェーン、人工知能(AI)、仮想通貨について、一人の銀行家としてどのように考えているか?』という質問に対して、それぞれ次のように答えています。
ブロックチェーン(Blockchain)は夢
はじめにブロックチェーン(Blockchain)についての意見を語ったカサール氏は「常に本物であり信頼できる取引や契約、文書、アイデンティティ、署名、権限などの記録を保持しているブロックチェーンは銀行家の夢のようである」と語っています。
彼はブロックチェーンの魅力について「改ざんまたは削除される危険性もなく、仲介者を必要とせずに検証・保存・検証・共有することが可能で、階層・官僚制・統制がなくても安全性とセキュリティを保証する」と説明しています。
カサール氏はこのようなことを踏まえて「ブロックチェーンは多くの分野において”ゲームチェンジャー”になる可能性がある」とも述べていますが、そのためには「技術革新の経験を経て、その間に存在する多くの障壁を乗り越える必要もあるため、ビジネスと政府におけるブロックチェーンの革命はまだ数年先になる可能性がある」とも語っています。
人工知能(AI)は未来
人工知能(AI)については「新しいフィンテックやAIなどのアプリケーションは、金融の将来に大きく影響する」という自身の考えについて、次のように説明しました。
人工知能(AI)に目を向けると、大手グローバル・バンキング企業が、サービス、収益および業績を向上させるためにAIへの投資を優先的に順位付けしていることは事実です。
新興のfintechやAIアプリケーションは金融の将来に大きな影響を与えており、アマゾン、グーグル、アップルなどの企業は、競争力の強化のために参入しています。これは50年前の最初のATMの外観と変わりありません。ATMは当時革命的な技術でしたが、現在我々はAIとロボット技術を『銀行の未来』と呼んでいます。
AIを最も積極的に活用しているプレーヤーは優位に立つでしょうか?現代の多くの大手IT企業とは違い、従来の銀行ビジネスモデルは、従業員が日常的な書類作成などのプロセスを実行することを望んでいます。一度AI革命が巻き起こると、その多くは消滅するかもしれません。しかしそれは必ずしもAIが従業員を無駄なものにするということではありません。
近年ではAIの技術を活用している仮想通貨プロジェクトなども、すでに複数発足しています。
イスラエルのEndor社が推進しているEndor(エンドール)プロジェクトは、人工知能などの技術を活用した『未来予測プラットフォーム』の開発を進めています。
Endor.coin(エンドール・コイン)とも呼ばれるこのプロジェクトは、人工知能によるデータ分析を民主化することで、手軽に利用できる正確な未来予測のサービスを全ての人に提供することを目的としており、コカコーラ/ウォルマート/マスターカードなどの時価総額数十兆円規模の企業と協力して、プロジェクトに取り組んでいます。
AIを活用した仮想通貨プロジェクトEndor(EDR)の記事はこちら
仮想通貨(Cryptocurrency)は脅威
しかしカサール氏は仮想通貨(Cryptocurrency)に関しては「それらが短期的または中期的に通貨建ての脅威となるという証拠はないものの、銀行にとっての脅威となり得る」と説明しています。
仮想通貨は別の話です。お金は”従来のもの”であっても”暗号通貨”であっても、決済システムが流れる必要があります。通貨は「何か」であり、支払い技術は「方法」ですが、それらは同じものではありません。
すべての人が銀行口座にアクセスできない発展途上国のモバイルペイメントで起こったことを思い出してください。
例えば東アフリカの携帯電話会社は、銀行が現金転換可能な電話クレジットをお互いに移転することを可能にしたために、銀行を決済仲介業者として跳躍させました。つまり、電話クレジットはデジタルメディアの交換媒体として使用でき、支払いインフラストラクチャはモバイルネットワークとなりました。
暗号通貨は、それを受け入れようとする人ための交換の媒体である”電話クレジット”のようなものです。
しかし、まだいくつかの基本的な質問があります。
それらは価値のあるストアとして受け入れられるでしょうか?どのように規制されるでしょうか?それらは合法的な手段になれるのでしょうか?現時点では、暗号通貨が短期的または中期的に法定通貨に対しての脅威となる可能性があることを示す証拠はほとんどありません。しかし、これらが銀行にとって意味することは、資金と通貨の送金を行う主要な支払い仲介者である彼らの伝統的な役割は、時代遅れではないにせよ、いずれは挑戦を受けることになります。
カサール氏は、仮想通貨はマネー・ロンダリングやそのボラティリティなどの関係から危険であると指摘していますが、いったん規制が改善されると「一部の人が先導的なメリットを享受する可能性がある」とも付け加えています。
ブロックチェーンと共に成長するマルタ
マルタ共和国のジョセフ・マスカット首相は、ブロックチェーンと仮想通貨の分野を成長させるために様々な取り組みを行ってきました。マルタ政府が2018年4月に可決した法案は、明確な規制の枠組みを提供しています。
ブロックチェーンフレンドリーな環境を整えたマルタには、世界でもトップクラスの取引量を誇る仮想通貨取引所Binance(バイナンス)やポーランド最大の取引所BitBayなどが拠点を置いており、Morgan Stanleyの調査では世界で最も仮想通貨取引量の多い国に選ばれています。
先日もBinanceとマルタ証券取引所は協力して、フィンテックと仮想通貨のスタートアップ企業を支援するプログラムを発表しました。
「MSX Fintech Accelerator」と名付けられたこのプログラムは、フィンテックや仮想通貨のスタートアップ企業12社の支援を行い、それらの企業や起業家の競争力高めることを目的としています。
MSXFintechAcceleratorとは
今や仮想通貨やブロックチェーンの最先端を走っているマルタ共和国で、新たな銀行家協会議長に任命されたカサール氏の発言は、今後の各業界に影響を与えると言えるでしょう。仮想通貨の暗号化技術はすでに銀行業界にも少しずつ変化を与えています。世界中に普及する仮想通貨と成長を続ける「ブロックチェーンアイランド・マルタ」に今後も注目です。
(引用:independent.com.mt)