米国富裕層の仮想通貨投資が拡大
米資産運用大手Grayscale(グレイスケール)が、富裕層を対象にした最新の調査レポートを公開しました。
この調査は分析会社ハリス・ポールと共同で2023年末から2024年にかけて計3回実施され、米大統領選で投票を予定していた成人5,368名のうち、投資可能資産が100万ドル(約1億4,960万円)以上ある富裕層412名を対象にしています。
レポートによると、富裕層の26%がすでに何らかの仮想通貨(暗号資産)を保有しており、これは米国全体の平均21%を大きく上回っています。
さらに富裕層の約38%(約5人に2人)が「将来的に仮想通貨を投資ポートフォリオに組み入れる可能性がある」と考えており、その割合は50歳未満では53%と過半数に達します(50歳以上では22%)。
また、富裕層投資家の36%はインフレやドル安といった経済・地政学的リスクの高まりを受け、ビットコイン(BTC)などの仮想通貨に注目するようになったと回答しており、2024年1月の「現物ビットコインETF承認」により関心が高まった層も34%にのぼりました。
富裕層が仮想通貨を選ぶ理由は?
レポートでは、富裕層が仮想通貨を選ぶ主な理由として「インフレヘッジ」と「長期的な投資成長の期待」を挙げています。
グレイスケールの調査でも50歳以上の富裕層保有者は「経済不安(インフレ・景気後退など)への備え」としてビットコインを好む傾向が強く、約78%が現在の経済状況を理由に仮想通貨への関心を高めたことが明らかになりました。
これはビットコインが「デジタル黄金」としてインフレ対策になるとの見方を反映しています。また若年層では「仮想通貨を他の資産と同様に将来有望な投資対象とみなす」傾向が強く、テクノロジーの成長による長期リターンに期待していることが示されています。
富裕層全体の22%が仮想通貨を「長期的に見て良い投資機会」と評価しており、周囲の成功体験による「FOMO(取り残される恐怖)」も心理的要因として働いていることが指摘されています。
加えて、富裕層は信頼する財務アドバイザーからの推薦をきっかけに投資するケースも多く、仮想通貨保有者の42%が「プロのアドバイザーに勧められたから購入した」と回答したことが報告されています。
ビットコインは未来の資産
米富裕層の金融不信と仮想通貨
富裕層の仮想通貨投資は、規制環境やマクロ経済の動向に大きく左右されます。
グレイスケールの調査によると、富裕層投資家のほぼ半数(50歳以上の43%、50歳未満の48%)が「さらなる政策・規制整備を待ってから投資したい」と回答しており、ルールが明確になるまで慎重な姿勢を崩していません。
レポートでは、2024年1月に米国でビットコイン現物ETFが承認されると、3割以上の富裕層が「ビットコインへの学習・投資意欲が高まった」と答えており、規制整備が進むことで安心感を得て市場参加を検討する投資家が増えていることが示されています。
また、金融システムへの不信感も無視できない要因です。2008年のリーマン危機や近年の銀行破綻を経験した投資家の中には「法定通貨や銀行だけに頼るのは危険だ」と考え、ビットコインを「政府の信用に左右されない資産」として注目していることも明らかにされています。
実際、若い世代ほど伝統的金融への失望感が強く、既存の金融システムは「自分達に不利にできている」という不信感が仮想通貨への投資動機になっているという指摘もあります。
さらに地政学リスク(戦争や国際対立)の高まりも資産防衛意識を促しています。レポートでは、米国富裕層の36%が「地政学的緊張やドル価値低下を受けて仮想通貨に注目し始めた」と答えており、仮想通貨が「有事の避難先」や「価値保存手段」として意識され始めていることが示されています。
ビットコインが金を超える
仮想通貨市場成長のカギは「富裕層の参入」
仮想通貨業界の専門家や市場アナリストたちも、富裕層マネーの動向に注目し、その影響を予測しています。
グレイスケールの戦略的パートナーシップ責任者であるジョン・ホフマン氏は次のように指摘しています。
今回のデータは、富裕層投資家の間で仮想通貨が長期的な投資機会として自信を得つつあることを示している。市場環境が変化し現物ETFが登場したことで、富裕層はデジタル資産を将来の金融ポートフォリオに不可欠な存在と見なしつつある。
仮想通貨が今後の金融における地位をさらに固めるだろう。
また、多くのアナリストは「次の強気相場は機関投資家や富裕層の資金流入が牽引役となる」と予測しています。既に米銀大手モルガン・スタンレーは富裕層顧客向けにビットコインファンドや関連投資商品を提供し始めており、今後さらなる資金流入が期待されています。
富裕層の仮想通貨参入は今後も拡大する見通しとされており、市場に与える資金的支援と安定効果は無視できないものの、規制動向次第では短期的な変動も起こり得るため、中長期的視点での運用提案がなされています。
機関投資家たちの関心
日本の投資家にも影響?
アジアでは既に富裕層の仮想通貨保有が一般化しつつあり、デジタル資産関連サービスを提供している「Aspen Digital」が公開した2024年のレポートによれば、アジアの富裕層の約76%が仮想通貨に投資しているとされ、これは1年前(58%)から大幅に増加しています。
日本でも野村ホールディングスが子会社を通じて仮想通貨ファンド運用を開始するなど、国内でも近年は機関投資家や富裕層の関心が高まりつつあります。
日本の投資家はリスク資産に慎重な傾向が見られるため、米国ほど急速に保有率が上がるとは考えにくいものの、今後はインフレや円安など経済環境の変化を背景に、富裕層の仮想通貨保有がさらに拡大する可能性があるのかもしれません。
※価格は執筆時点でのレート換算(1ドル=149.68円)
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Souce:Grayscaleレポート
執筆・翻訳:BITTIMES 編集部
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