韓国成人の4人に1人が仮想通貨保有
2025年6月29日、韓国のハナ金融研究所が公開した最新レポート「2050世代仮想通貨投資トレンド」で、韓国成人の27%がビットコイン(BTC)などの仮想通貨を保有していることが明らかになりました。
同レポートは、韓国でウォン連動型ステーブルコインへの関心が高まる中、20〜59歳の韓国人1,000人を対象に実施された調査結果に基づき公開されました。
レポートでは、仮想通貨への投資額は個人の総金融資産の平均14%を占めており、仮想通貨が個人の資産ポートフォリオに組み込まれ始めている実態が示されています。
また、保有の中で仮想通貨への投資額を今後増やす意向があると回答した人は全体の約70%に達しており、将来的な追加投資への関心が高いことも報告されています。
韓国では主要銀行によるウォン連動型ステーブルコイン発行計画が進められており、2025年末から2026年初頭にかけて、国内の8つの銀行が連携してウォン連動型ステーブルコインを発行する計画が伝えられています。
こうしたウォン建てステーブルコインへの期待や議論の拡大を背景に、仮想通貨への投資意欲が一段と強まっていると分析されています。
企業のステーブルコイン発行を認める法案
韓国に広がる仮想通貨への投資意識
中高年層にも広がる仮想通貨保有
ハナ金融研究所のレポートによると、仮想通貨の保有率27%という結果は20代から50代にかけて幅広い世代にまたがっています。
年代別では40代の保有率が31%と最も高く、次いで30代が28%、50代が25%となっており、若年層だけでなく中高年層にも仮想通貨が浸透していることが明らかにされています。
特に50代では「老後の資金準備」のために仮想通貨を保有する人が約50%となっており、仮想通貨が単なる投機ではなく資産形成の手段として認識されています。
調査対象者全体でも、「資産を増やすこと(79%)」や「退職後の備え(40%)」を主な目的に挙げる割合は「一時的な流行・娯楽(24%)」や「生活費の補填(22%)」を目的とする割合を大きく上回りました。
投資スタイルの変化と情報収集の進化
同研究所の調査では、投資スタイルの変化も明らかにされました。初期の頃に多く見られた短期売買や投機的な取引から、計画的で長期的な投資へとシフトする傾向が確認されています。
定期的に積立投資を行う人の割合は過去の調査の10%から今回34%へと大幅に増加し、中期的な保有・運用をする投資家も26%から47%に増えています。
一方で短期トレードを主とする投資家の割合は48%から45%へと微減しており、市場の成熟に伴って投資家が「計画的な積立・長期運用」を重視し始めていることが分析されています。
情報収集手段についても、口コミや掲示板を主要な情報源とする割合が減少し、公式取引所の発信情報や分析プラットフォームを利用する割合が増加するなど、より信頼性の高い情報源を求める動きが強まっていると伝えられています。
主力銘柄と保有傾向の分析
韓国の仮想通貨投資家の保有銘柄に関する調査によると、現在はビットコインが依然として主軸となっています。
投資家の約6割がポートフォリオにBTCを含めており、平均で2種類程度の仮想通貨を保有していることが明らかにされています。
投資経験が浅いうちはビットコインへの集中投資が多いものの、経験を積むにつれてアルトコインやステーブルコインなどにも資産を分散させる傾向が示されています。
なお、NFT(代替不可能トークン)やSTO(証券型トークン)への投資は依然として限定的で、調査対象投資家の9割は純粋な仮想通貨(コイン)への投資に留まっているとされています。
こうした傾向から、韓国の個人投資家にとって仮想通貨投資はビットコインを入口とし、次第に他の仮想通貨クラスへと関心を広げていくパターンが一般的だと考えられます。
韓国の仮想通貨取引と金融インフラの課題
韓国の仮想通貨投資家が感じている最大の不便は、仮想通貨取引所と銀行口座の連携制限に関する制度上の課題です。
現在、韓国では仮想通貨取引所ごとに提携銀行が1行に限定される「一取引所一行制」のルールがあり、他行口座との連携ができません。
そのため、調査では約76%もの投資家が「既存の自分の銀行口座を取引所に連携できないのは不便だ」と感じていることが明らかになりました。
大手取引所のUpbit(アップビット)はK銀行としか連携していないため、ユーザーの約70%がK銀行の口座を利用せざるを得ない状況となっています。
投資家の約70%は「もし複数の銀行口座を取引所で使えるようになれば、主に利用している銀行口座を仮想通貨取引にも使用したい」と回答しており、銀行連携の自由化に対する期待が示されています。
このような制約やインフラ面の不便を背景に、投資家からは既存の金融機関による仮想通貨市場への参入拡大や法制度の整備を望む声が強まっています。
若年層を中心に広がる仮想通貨依存
ハナ金融研究所の尹善英(ユン・ソニョン)研究員は次のように述べ、積極的に仮想通貨分野へ取り組むことの重要性を強調しています。
仮想通貨は既に投資家のポートフォリオにおいて中心的な役割を果たしており、投資家は法制度の整備と金融機関の役割拡大に関心を示しています。
そして、仮想通貨を基盤とした金融商品の多様化、資産管理の高度化、仮想通貨業界との協業など、投資エコシステム拡大に向けた先手の準備が必要です。
韓国ではこの調査結果に象徴されるように仮想通貨が広く受け入れられはじめており、制度面でも投資家保護と市場健全化の両立を図る動きが進んでいます。
業界関係者からは「仮想通貨が若年層にとって事実上『唯一の資産形成手段』と感じられている」という指摘も出ており、高止まりする失業率や住宅価格の中で将来への危機感が若年層の投資意欲を高める一因になっているとの見解も示されています。
量子コンピューター関連スタートアップAnzaetekのCPOであるEli Ilha Yune氏はドイツで開催されたブロックチェーンイベントの席上で「欧米のようなブロックチェーン技術への楽観ではなく、経済的な絶望感と一攫千金の希望から韓国の若者は仮想通貨に向かっている」と述べており、韓国の仮想通貨ブームの裏には伝統的な投資手段への閉塞感と将来不安があることを指摘しています。
年金基金管理にブロックチェーン導入検討
韓国、仮想通貨で官民連携が活発化
韓国では仮想通貨の国内市場拡大に向けた官民の動きが活発化しています。
韓国8銀行、ウォン連動ステーブルコインを発行へ
特に注目されるのが、韓国ウォンに価値を連動させたステーブルコインの発行計画です。
韓国の主要8銀行(KB国民銀行、新韓銀行、ウリィ銀行、農協銀行、企業銀行、水協銀行、シティバンク韓国、スタンダードチャータード銀行)はコンソーシアムを組み、ウォンを裏付け資産とするステーブルコインを共同で発行する計画を進めています。
この取り組みは、米ドルに連動したステーブルコイン「テザー(USDT)」や「USDコイン(USDC)」などが国際的に市場を席巻する中で、自国通貨ウォンの地位を守りつつ仮想通貨分野で主導権を握る狙いがあります。
現在世界で発行されているステーブルコインの約99%は米ドルにペッグ(価値連動)しており、韓国政府・金融界はウォン連動型ステーブルコインの導入によって海外への資本流出抑制や国内デジタル経済圏の強化を目指しています。
プロジェクトの開始時期は2025年末から2026年初頭にかけてと見込まれており、伝統的な銀行が主体となって仮想通貨に乗り出す初の大規模事例になるとも伝えられています。
各銀行は厳格な規制下で安定性を確保しつつ、1ウォン=1コインの価値を保証する「預金担保型」のステーブルコイン発行モデルを検討しており、現在関係当局との協議や規制面の整備が進められている段階です。
企業の仮想通貨発行を容認へ
ウォン連動型ステーブルコインの実現に向けて、韓国の立法・規制面でも大きな動きがありました。
韓国の与党「共に民主党」は2025年6月10日、企業によるステーブルコイン発行を公式に認める内容を含んだ包括的な法律「仮想通貨基本法」を国会に提出しました。
同法案は、自己資本5億ウォン(約5,500万円)以上の企業であれば、準備金による1対1の償還保証を条件として独自のステーブルコイン発行を可能にすることを定めています。
さらに、ステーブルコインなど価値連動型の仮想通貨を発行する際には金融委員会(FSC)の承認を必要とすることや、投資家保護の観点からの透明性確保措置も盛り込まれており、仮想通貨市場の健全な発展と競争力強化を狙った内容となっています。
この法案提出は、新しく就任した李在明(イ・ジェミョン)大統領が大統領選期間中に掲げた公約を具現化する動きでもあり、仮想通貨大国と言われる韓国で企業発のウォン連動型ステーブルコインが解禁されれば、市場拡大の強力な追い風になると期待されています。
韓国中央銀行の慎重姿勢と市場のバランス
一方で、こうした急速な変化に対して韓国銀行(中央銀行)は慎重な姿勢も見せています。
韓国銀行の李昌鏞(イ・チャンヨン)総裁は、「銀行以外の企業によるステーブルコイン発行は金融政策の有効性を損なう恐れがある」と懸念を示しており、ウォン連動型ステーブルコインの規制は中央銀行が主導すべきだと主張しています。
韓国銀行の柳相大(リュ・サンデ)シニア副総裁も記者会見で「ウォン連動型ステーブルコインの導入は、まず高い規制下にある商業銀行に発行を認め、徐々に銀行以外のセクターへ拡大するのが望ましい」と述べており、段階的で安全性を重視した導入方針を支持する姿勢を示しました。
柳副総裁はまた、ステーブルコインの普及が金融政策や決済システムに与える影響について言及し、中央銀行として資本流出や市場秩序の維持に留意しつつ、規制の枠組みとセーフティネットを整備する必要性を強調しています。
制度整備と韓国のWeb3戦略
このように、韓国では仮想通貨の主流化に向けた取り組みが、投資家・民間企業・政府当局によって加速しています。
韓国政府は2023年に利用者保護法を成立させるなど規制面での基盤を固めており、2024年にはビットコイン現物ETF(上場投資信託)の導入も視野に入れるなど市場拡大に積極的な姿勢を示しています。
今回の調査で明らかになった「成人の4人に1人が仮想通貨投資家」という実態は、こうした政策推進の追い風となるものです。
伝統金融と仮想通貨の融合が一段と進む韓国市場の動向は、今後も世界の仮想通貨業界から注目されるとみられています。
各種規制の整備や安定したステーブルコインの導入によって、韓国がアジア地域におけるWeb3およびデジタル金融の拠点としての地位を確立する今後の動向に注目が注視されています。
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Source:ハナ金融研究所レポート
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