CFTC、ナスダックの市場監視技術採用で透明性を向上
CFTC(米商品先物取引委員会)は2025年8月27日、Nasdaq(ナスダック)の市場監視技術「Nasdaq Market Surveillance」を導入し、仮想通貨市場を含む取引市場のリアルタイム監視体制を強化する方針を示しました。
この高度な監視プラットフォームにより、CFTCは不正取引や市場操作といった異常行為を自動で検知し、即座にアラートを受信できるようになります。
Nasdaqの監視システムはすでに50以上の取引所と20の規制当局で採用されており、クロスマーケット分析機能も搭載されています。これにより、複数の資産クラスにまたがる不正パターンの把握が可能となっています。
CFTCはこれまで1990年代に導入した旧監視システムを使用してきましたが、今回のアップグレードは、ファム委員長代行が今年3月に表明していた監視体制刷新計画を具体化したものです。
同氏は「CFTCが常に一歩先を行くことが重要だ」と述べ、新システムによって市場の健全性保護が一層強化されると強調しました。
仮想通貨規制強化に向けた新施策
ナスダック連携で進むCFTCの監視近代化
リアルタイム監視による即応体制の確立
CFTCの公式発表によれば、Nasdaq(ナスダック)の市場監視技術「Nasdaq Market Surveillance」の導入により、CFTC全体の市場監視能力が底上げされ、各部門が連携して不正行為の兆候を迅速に検知できるようになると説明しています。
具体的には、異常な取引活動や不自然な価格変動を検出する自動アラート機能に加え、複数市場を横断するデータ分析機能が提供されます。
また、詳細な注文板データへのリアルタイムアクセスも可能となり、少数精鋭の職員による市場監視の効率化につながるとしています。
ファム委員長代行は「新システムにより、市場の動向分析や異常検出が効率化され、熟練したスタッフがさらに迅速な対応を取れるようになる」と述べました。
新資産クラスに適応する監視体制の強化
この技術刷新は「21世紀の規制当局」としてCFTCを最適化する取り組みの一環と位置付けられています。
Nasdaq社長のTal Cohen(タル・コーエン)氏は「今日の金融市場には、急速な規制変化や新たな資産クラスに適応できる高度な監視技術が求められる」と指摘し、CFTCとの協力を通じて米国デリバティブ市場の健全性維持に取り組む姿勢を示しています。
仮想通貨市場監視も担うCFTCの役割強化
今回の監視強化には、CFTCの規制対象が仮想通貨分野に拡大しているという背景があります。
CFTCは従来、ビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)など一部の仮想通貨を「商品」と位置付けてきましたが、近年の法整備の動きでは現物取引(スポット市場)の監視もCFTCが担う方向性が示されています。
米国では2024年末に発足したトランプ政権が、仮想通貨規制の主導権をSEC(証券取引委員会)からCFTCへ移管する方針を打ち出しました。
この方針では、総額3兆ドル(約442兆円)規模とされる仮想通貨市場の大半をCFTCが監督する権限を与える内容となっており、CFTCはその枠組みのもとで仮想通貨対応を強化しています。
成熟市場化に伴う監視体制の最適化
CFTCは、ホワイトハウスの報告書で提言された施策を実行に移す「クリプト・スプリント」を開始するなど、仮想通貨分野で主導的な役割を果たし始めています。
こうした環境変化の中、急増する新市場や連日稼働する取引所に対処するには高度な監視ツールが不可欠だとして、CFTCは「市場の成長と革新に伴う不正リスクに対処するため、より洗練された監視手段が必要だ」と強調しています。
今回導入されるNasdaqの監視プラットフォームは、こうした要請に応えるソリューションとして、CFTCのミッション(市場の完全性の維持)を強力に支えるものと位置付けられています。
SECからCFTCへの規制権限移譲
仮想通貨市場の不正摘発事例と監視体制の進化
仮想通貨市場の不正取引摘発をめぐっては、大規模な市場操作事件が明るみに出ています。
FBI「トークンミラー作戦」で大規模摘発
連邦捜査局(FBI)が実施した「トークンミラー作戦」では、取引高の人為的水増しで価格をつり上げるウォッシュトレード(偽装取引)の大規模スキームが摘発されました。
この事件では、仮想通貨のマーケットメイク企業「Gotbit」のCEOら複数の関係者が、市場操作や電子詐欺の罪で起訴されました。
FBIは偽の仮想通貨を発行して犯行グループを炙り出す手法を用い、その結果、約15名の個人と3社が2024年10月に起訴に至っています。
2025年3月には、本件で摘発されたGotbitの創業者が米連邦裁判所で有罪答弁を行いました。同氏は、2018〜2024年に複数の仮想通貨で大規模なウォッシュトレードと価格操作を行っていた事実を認めています。
司法当局によれば、Gotbit社は取引量を偽装して依頼主のトークン価値を吊り上げ、その報酬として数千万ドル規模の利益を得ていました。同社は約2,300万ドル(約34億円)相当の仮想通貨の没収にも同意しており、市場操作型詐欺に対して法執行機関が強い姿勢を示した事例となりました。
不正検知で取引停止されたJELLYJELLY事件
一方、分散型取引所(DEX)を含む民間プラットフォームでも、不正な市場行為に対して迅速な対処事例が出ています。
今年3月、分散型取引所Hyperliquid(ハイパーリキッド)は上場直後に急騰したミームコイン「JELLYJELLY」の無期限先物取引を緊急で上場廃止とする措置を取りました。
「JELLYJELLY」で不審な取引活動が検知されたことを受け、バリデーターの投票によって取引停止が決定されるという異例の対応となりました。
Hyperliquidは全ポジションを事前に定めた価格で強制決済し、不正関与が疑われるアドレス以外のユーザーには損失補填を行う方針を示しています。
同プラットフォームによれば、こうした断固とした措置により、最悪で約2億3,000万ドル(約338億円)規模に及ぶ可能性のあった損失を回避できたとしています。最終的な損失額は約70万ドル(約1億円)にとどまったと報告されています。
官民連携で進む仮想通貨市場の信頼回復
取引所が自ら不正の疑いに迅速に対応した事例は、市場健全化の流れを示し、利用者資産の保護と市場信頼の維持を重視する近年の業界姿勢を反映しています。
今回のCFTCによるNasdaq監視技術の導入は、官民両面で仮想通貨市場の透明性と公平性を確保する動きを強力に後押しするものとなっています。
※価格は執筆時点でのレート換算(1ドル=147.31 円)
仮想通貨不正取引に関する注目記事はこちら
Source:CFTC公式発表
サムネイル:AIによる生成画像





























