トランプ政権、退職年金で仮想通貨投資を解禁か
ドナルド・トランプ大統領が2025年7月17日、確定拠出型退職年金制度「401(k)」に仮想通貨や金などを投資対象として認める大統領令の発令を検討していると報じられました。
フィナンシャル・タイムズ(FT)は関係者3人の話として、大統領令が早ければ今週中にも署名され、仮想通貨や貴金属、未公開株式ファンドなど幅広い代替資産への投資を401(k)プランで認める内容になると伝えています。
これにより、約9兆ドル(約1,330兆円)規模とされる米国の退職年金市場に新たな投資対象が加わることになり、老後資金の運用方法に大きな転換がもたらされる可能性があると見られています。
対象となる資産には、ビットコイン(BTC)をはじめとした仮想通貨や金属コモディティ(金など)に加えて、インフラ事業、企業買収ファンド、私募ローンといった幅広いオルタナティブ投資が含まれると伝えられています。
州の公的機関がストラテジー株を保有
退職年金制度「401(k)」改革に動くトランプ政権の狙い
フィナンシャル・タイムズによると、トランプ政権は、バイデン前政権が実質的に401(k)プランへの仮想通貨組み入れを制限していた規制について、その見直しを進める意向を示していると報じられています。
バイデン前政権の規制を大幅修正へ
米労働省は2025年5月、ビットコインなどの仮想通貨を401(k)プランの投資対象に加えることに対して「極めて慎重であるべきだ」としていた2022年のガイダンスを正式に撤回しました。
労働省の高官は「前政権による指針は政府の過度な介入であり、本来、投資判断はプラン受託者(運用責任者)が下すべきものだ」との見解を示しています。
トランプ政権はこうした規制緩和により、退職年金の運用に市場原則を再導入し、加入者がより多様な資産へ投資できる環境を整える方針であると見られています。
トランプ氏は政権1期目の2020年、労働省を通じてターゲットデートファンドなどの401(k)運用商品に私募株式(プライベート・エクイティ)を組み入れることを認める書簡を出していました。
しかし、2021年にバイデン政権が「推奨しない」と表明したことで、この方針は実質的に撤回されました。今回の大統領令は、その方針を覆す動きとして位置づけられています。
ブラックロックなどが代替資産提供へ
この大統領令が実現すれば、ブラックストーン、アポロ、ブラックロックなどの大手投資会社が提供する未公開資産ファンドが、401(k)プラン向けに解禁される可能性があると報じられています。
フィナンシャル・タイムズによれば、ブラックストーンは年金運用大手バンガードとの提携を通じて、プライベート市場型ファンドの展開を計画しています。
また、アポロやスイスのパートナーズ・グループも、米大手年金運用会社Empower向けに関連商品の展開を計画しているとのことです。
さらにブラックロックも、退職年金プランの管理会社と提携し、オルタナティブ資産を組み入れた運用サービスの提供を開始していると報じられています。
業界団体は歓迎、政治的対立も浮上
米オルタナティブ資産運用業界団体MFAのブライアン・コーベットCEOは「401(k)プランにおける代替投資の選択肢が広がることで、富の形成や老後資金の蓄積を目指す多くの国民にとって有益だ」と述べ、歓迎の意向を表明しました。
一方で、野党・民主党の間では「トランプ政権の仮想通貨推進策は、大統領自身や関係者の利益を優先しており、公的年金の安全性を損ねかねない」との批判の声も上がっています。
仮想通貨の退職年金への導入については、政界内でも賛否が分かれており、議論が続いている状況です。
年金基金にビットコイン導入提案
年金運用に仮想通貨を組み込む動きが拡大
仮想通貨を活用した年金投資については、米国をはじめとする各国の年金基金において、導入事例や検討の動きが徐々に広がりを見せています。
米州レベルで進む仮想通貨年金投資の法整備
2025年3月、米ノースカロライナ州議会では、公的年金基金の最大5%をビットコインなどの仮想通貨に投資可能とする法案が上下院に提出されました。
この法案はすでに州下院で可決されており、今後成立すれば、ノースカロライナ州としては初めて仮想通貨を活用した年金投資の枠組みが導入されることになります。
また、米ウィスコンシン州の年金基金は、現物ビットコインETFを通じて資産の約0.1%をビットコインに投資したことが明らかになりました。
この取り組みは、米国の州による年金運用において初の仮想通貨投資事例とされ、州レベルでの退職年金への仮想通貨組み入れが現実味を帯びてきています。
英国で初のビットコイン年金運用が始動
2024年11月、英国ではある年金基金が運用ポートフォリオの約3%、約6,500万ドル(約95億円)をビットコインに直接投資したことが明らかになりました。これは同国における初の事例とされています。
この基金では、受託者とESG(環境・社会・ガバナンス)およびセキュリティ面について慎重に協議を重ねたうえで、ビットコインへの投資を決定したと伝えられています。
また、ビットコインの秘密鍵はセキュリティを強化する目的で、5つの独立機関によって分割保管されていると伝えられています。
日本年金GPIF、暗号資産投資の調査に着手
さらに日本では、世界最大の年金運用機関である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が、2024年3月に発表した中期計画において、ビットコインを含むデジタル資産への投資可能性について調査を進める方針を明らかにしました。
GPIFはこの取り組みをあくまで情報収集の一環としていますが、国内では暗号資産関連ファンドの公募を可能にする法改正も進められています。
さらに、ビットコインをインフレヘッジ手段として捉える見方も市場関係者の間で広がりを見せています。
このように、年金基金による仮想通貨の活用に向けた動きは各国で広がっており、トランプ大統領による政策もそうした流れを加速させる要因として注目を集めています。
※価格は執筆時点でのレート換算(1ドル=148.48 円)
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Source:フィナンシャル・タイムズ報道
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