マレーシア中央銀行、ビットコイン・XRPなどの銀行預金代替可能性を分析|ワーキングペーパー公開

マレーシア中央銀行、ビットコイン・XRPなどの銀行預金代替可能性を分析|ワーキングペーパー公開(Bank Negara Malaysia analyzes potential of Bitcoin and XRP as alternatives to bank deposits|Working paper released)
目次

マレーシア中銀、仮想通貨の銀行預金代替性を分析

マレーシア中央銀行(BNM)は、ビットコイン(BTC)エックスアールピー(XRP)などの私的トークンが、将来的に現金や銀行預金を置き換える可能性について分析したワーキングペーパーを公表し、仮想通貨決済の将来像について言及しました。

報告書では、現代の貨幣の機能や役割を踏まえ、こうした仮想通貨が銀行システム外でも決済手段として広く利用され、現金(CIC)や銀行預金と同等の機能を果たし得る可能性があると指摘しています。

このBNMの見解はマレーシア国内外で報道され、暗号資産コミュニティや金融関係者から関心を集めました。特定の仮想通貨に中央銀行が具体的に言及する事例は限られており、海外の専門家からも分析や評価が寄せられています。

マレーシア中銀が示す仮想通貨と銀行預金の未来像

BNMの研究者が執筆した本ワーキングペーパーは、現行の金融システムにおける「マネーの基本原理」を踏まえ、中央銀行デジタル通貨(CBDC)や民間デジタル通貨の在り方をシャリア(イスラム法)観点も含めて検討する探索的研究です。

報告書は、現代の貨幣が銀行のバランスシート上の信用創造に支えられている仕組みを説明し、その延長として仮想通貨が銀行預金とどの程度同等の機能を持ち得るかを分析しています。

特に、仮想通貨が銀行を介さず決済手段として広く利用される将来像を想定し、その場合には現金流通や銀行預金残高の一部を置き換える可能性を示しています。

XRPとBTCに見る仮想通貨の可能性と課題

報告書では、ビットコインやXRPなどの仮想通貨について「将来的に銀行システム外で決済手段として広く用いられ、現金や銀行預金を置き換え得る理論的可能性がある」と言及しています。

また、報告書はXRPやビットコインの潜在的な役割に触れる一方で、安定した名目アンカーの欠如、市場の断片化、投機的性質などの重大な制約が存在すると指摘しています。

さらに、ビットコインやイーサリアム(ETH)といった特定銘柄を名指しして日常決済に不向きと断定はしていないものの、私的分散型トークン全般については、価格変動の大きさ、取引処理能力の限界、投機性などにより広範な決済利用には適していない傾向があるとしています。

規制・安全性・シャリア適合性の重要性

今回の評価は、政策を直接示すものではなく探索的検討に位置づけられており、序文では「現時点で方針転換を提案するものではなく、理論的可能性の研究を目的としている」と説明されています。

BNMは、仮想通貨が銀行預金を置き換えるには、法規制や金融システムの安全性確保、シャリア適合性など多くの課題を解決する必要があると繰り返し指摘しました。

イスラム金融の観点からは、預金と同等に機能するトークンが利子や過度な投機の問題をどう回避するかが重要であり、報告書は副題に「シャリア分析」と掲げ、宗教法の枠組みを踏まえた議論を展開しています。

CBDC統合運用を見据えた提案

BNMは、これらの仮想通貨を金融システムに組み込む際の制度設計についても提案しています。

報告書の終盤では、トークン化された決済手段の実証実験(パイロットプログラム)やCBDCとの統合運用検証、シャリア適合の規制枠組み構築などを将来的な課題として示しました。

同時に、関連法の整備や消費者保護策の確立といった包括的な改革が不可欠であると指摘しました。そのうえで、短期的に民間トークンが銀行預金を代替する状況には至らないとの見解も示しています。

BNMは、この調査を通じて新興デジタル通貨と既存金融システムの共存可能性を探り、金融安定や通貨主権維持という使命との両立の重要性を強調しています。

こうした慎重かつ前向きな対応は、国際的にも稀な事例であり、BNMが将来の金融革新に対して柔軟な姿勢を示しました。

仮想通貨とCBDCで変革を迎えるマレーシア

BNMのワーキングペーパー公表は、マレーシアが近年デジタル金融分野で積極的に取り組んでいることを示しています。

規制サンドボックスによる新たな実証実験

2025年6月、アンワル・イブラヒム首相はクアラルンプールで開催された「ササナシンポジウム2025」で、デジタル資産イノベーションハブの設立を発表しました。

このハブは、国内外のフィンテック企業が規制の枠内でプログラム可能なマネーやリンギット連動型ステーブルコインなどを試験運用できる環境(規制サンドボックス)を提供します。

政府は、この取り組みによりデジタル経済に必要なインフラや人材、ルール整備を官民連携で推進し、将来の金融イノベーションを国内に取り込む方針です。

アンワル首相は「官民協力によりインフラ、政策、人材を整備し、デジタル化に対応した将来志向のマレーシアを目指す」と述べ、中央銀行のラシード総裁も「金融安定の管理者として仮想通貨の進展に対応し、決済システムの現代化や資産のトークン化に取り組む」と強調しました。

CBDC導入戦略と民間連携

BNMは、リンギット建てCBDCについて、小売型ではなく卸売型(ホールセール型)に焦点を当てた研究開発を進めています。

2024年に小売型CBDCの検討範囲を限定した背景には「国内の小口決済は既存のインフラで十分に対応可能」との見解があります。

その代替として、民間によるステーブルコインの活用を認めることで、CBDC戦略と民間イノベーションの両立を図る方針を示しました。

資産トークン化の市場展望

マレーシアの金融業界でもデジタル資産への期待が高まっています。

有力投資銀行ケナンガ(Kenanga)は、2025年8月に発表したホワイトペーパーで、同国の資産トークン化市場規模が2030年までに約430億ドル(約6.4兆円)に達する可能性を指摘しました。

「Project Juara」と題されたこの報告書は、ユニットトラストや債券、スクーク(イスラム債)などをブロックチェーン上でトークン化することで、市場効率と透明性の向上につながると分析しています。

同レポートは、アンワル首相が2025年4月に述べた「適切な措置を講じれば、マレーシアは世界的なデジタル資産革命の最前線に立てる」との発言とも一致する内容です。

バイナンス創業者との協力構想

アンワル首相は、2025年1月にアラブ首長国連邦の当局者や大手仮想通貨取引所Binance(バイナンス)創業者であるチャンポン・ジャオ(CZ)氏と会談し、暗号資産産業の育成と金融システムの近代化を推進する方針を示しました。

同年4月には再び両者が会談し、マレーシアをアジアのブロックチェーンハブにするための具体策が協議されています。

この席で首相は、規制当局やデジタル産業省など関係機関との継続的な連携が不可欠であると述べ「ブロックチェーン普及には政府主導の取り組みが欠かせない」と強調しました。

CZ氏は、自身のX(旧Twitter)で「適切なステップを踏めば、マレーシアは世界的なデジタル変革の最前線に立つことができる」と投稿し、同国の将来性を評価しました。

仮想通貨と規制整備で進化するマレーシアの金融インフラ

マレーシアでは中央銀行、政府、民間企業が連携し、仮想通貨やブロックチェーンを含むデジタル金融分野の制度整備と技術実装が進められています。

BNMのワーキングペーパーが描く「仮想通貨が現金や銀行預金を補完する未来像」は、同国の政策方針や市場の成長予測と連動し、その実現可能性を高めています。

今後の規制整備と技術革新の進展によっては、マレーシアがアジアのデジタル資産・金融革新の中心的存在となる可能性が高く、その動向が引き続き注目されます。

※価格は執筆時点でのレート換算(1ドル=148.31 円)

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Source:BNMワーキングペーパー公式発表
サムネイル:AIによる生成画像

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Written by

BITTIMES 編集長のアバター BITTIMES 編集長 仮想通貨ライター

2016年から仮想通貨に関するニュース記事の執筆を開始し、現在に至るまで様々なWeb3関連の記事を執筆。
これまでにビットコイン、イーサリアム、DeFi、NFTなど、数百本以上の記事を執筆し、国内外の仮想通貨ニュースの動向を追い続けている。

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