「黒海小麦取引」の情報管理にブロックチェーン導入テスト|スイス農作物輸出会社
スイスに本拠地を構え農作物の国際貿易を扱っている「Transoil International(トランスオイル・インターナショナル)」と「Solaris Commodities(ソラリス・コモディティーズ)」は、ブロックチェーン技術を用いた黒海小麦取引のテストを成功させました。両社はこの取り組みを通じて小麦取引の合理化に取り組んでいます。
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大規模な小麦生産地「黒海」
黒海の周辺からシベリア南部にかけての非常に広い地域では大規模な小麦の生産が行われています。黒海沿岸には広大で豊かな平原が広がっているため、豊かな穀物(小麦)の産地として、古代から重要視されてきました。
しかし一口に「小麦産地」といっても自然環境、地理的・経済的な条件には大きな違いがあり、栽培される小麦にも冬小麦・春小麦などの違いがあり、生産量もその年によって大きな違いがあるため、取引情報を含めた小麦に関する詳しい情報を合理的な方法で管理することが求められていました。
また取引される小麦の量も膨大であり取引内容に問題が見つかった場合にはそれらの情報を調べる作業が非効率的でもあったため、黒海小麦を扱う貿易業界では合理的な情報管理方法が必要となっていました。
ブロックチェーンで「監視状況」を改善
今回行われた試験取引には、スイスのスタートアップ企業であるCerealia(シリアリア)社が開発したブロックチェーンベースの農作物取引、金融プラットフォームが使用されています。
この取り組みは、取引に関連するすべてのデータをブロックチェーン上に記録することによって、取引に問題が発生して争いごとが発生した場合などにスムーズに対処できる環境を整え、それらのリスクを最小限に抑えることを主な目的としており、時系列に沿って取引記録を表示できるようになっています。
「トランスオイル」と「ソラリス」は、農作物の国際的な取引を行う事業を行っており、小麦粉や植物油、製粉用小麦などを扱っています。両社は今回の取り組みを通じてロシアの港湾都市であるノヴォロシースクを指定船積港とした本船渡しの条件で「黒海小麦2万5,000トン」の売買を成功させました。
「S&PGlobal」の発表によると、今回の黒海小麦の取引でブロックチェーン技術を使用するのは始めてのことだと説明されています。今回の取引では価格や積載率などの契約内容は一般向けには公開されていないものの、取引の詳細や契約内容は暗号化された状態でシステムにアップロードされています。両社は取引のステップをブロックチェーン上で記録・管理することによって、それぞれの段階の監視状況を改善することを目指しています。
プレスリリースの情報によると、今回の取引は独立した監査人が重要となる箇所を念入りに検証し、デジタル署名、スマートコントラクト、タイムスタンプ、署名入り書類に問題がないことを確認したと報告されています。また、これらのデータは暗号化されており、会計のないデータが混入していないことや全てのデータが最新のものであることも確認されています。
CerealiaのCEOであるAndrei Grigorov(アンドレイ・グリゴロフ)氏は、『次のステップではフィンテックを使用して現地の通貨で新興市場のトレーダーを支援する』と述べています。
農業や物流でも活用される「ブロックチェーン技術」
ブロックチェーン技術を農業や物流に活用する動きは世界中で増加してきています。
世界の四大穀物会社と言われる「ABCD」は、国際的な穀物取引のデジタル化を目指してブロックチェーンや人工知能(AI)の技術を活用していく方針を固めています。ABCDはこの取り組みによってこれまで多くの人員とコストがかかっていた作業を合理化し、コストを削減することを目指しています。
また、オランダ最大規模のスーパーマーケットチェーンである「Albert Heijn(アルバート・ハイン)」は、自社のオレンジジュースの生産地情報などに透明性をもたらすためにブロックチェーン技術を導入しています。
食べ物生産地情報や取引情報に透明性をもたらすことは多くの消費者から求められているため、このような取り組みは今後もさらに世界中で拡大していくと考えられます。
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