ステーブルコイン拡大、FRBが中立金利への影響を警戒
FRB(米連邦準備制度理事会)のスティーブン・ミラン理事は2025年11月7日、ニューヨーク市で開催された講演の中で、ステーブルコインの急速な拡大が米国経済における「中立金利(r*)」を押し下げる可能性があると述べました。
中立金利(r*)とは、景気を過熱も抑制もしない理論上の金利水準であり、FRBが金融政策の方向性を判断する重要な基準とされています。
ミラン氏は、7月に成立した「GENIUS法」によって米国でのステーブルコイン発行の法的枠組みが整備されたことに触れ、これを市場の信頼性を高める重要な一歩だと強調しています。
さらに、同氏はFRB職員の試算を引用し、ステーブルコインの市場規模が今後数年で1兆〜3兆ドル(約150兆〜450兆円)に達する可能性があると示しました。
この試算は、新型コロナウイルス下でFRBが約3兆ドルの国債を購入した量的緩和(QE)に匹敵する規模であり、ステーブルコイン市場の拡大も同様に金利水準に下方圧力をもたらす「無視できない要因」になるとミラン氏は指摘しています。
FRB決済の新ルート開放を提案
FRBが警戒するステーブルコインの経済的インパクト
新たなドル需要が米国経常赤字を押し広げる可能性
ミラン氏は声明の中で、ステーブルコインの普及が「グローバル貯蓄過剰」に類似した現象を引き起こす可能性を指摘しました。
2000年代初頭にベン・バーナンキ前議長が提唱した同概念では、世界的な貯蓄超過が米国の経常赤字拡大と金利低下を招いたとされています。
ミラン氏は、ステーブルコインによる追加的なドル資産需要が米国GDP比で約1.2%分の経常赤字拡大につながると試算し、これは当時の貯蓄過剰現象の約3割に相当すると述べました。
さらに同氏は「ステーブルコインの需要は主に米国外の新興国市場(EME)や一部の先進国で高まる」と述べ、ドル資産へのアクセスが制限される地域での利用拡大が顕著になると指摘しています。
ミラン氏は、こうした地域でのドル建て資産需要の高まりが米国の国債利回りを押し下げ、政策金利に下方圧力を与える可能性があるとの見解を示しました。
中立金利の低下が示す新たな政策金利の基準
一方で、ステーブルコインが銀行預金から資金を流出させるリスクは限定的とした上で「GENIUS法に基づくステーブルコインは利息を提供せず、連邦預金保険の対象外であるため、国内銀行システムへの大規模な影響は低い」と説明しました。
ミラン氏はまた、安定的な金利政策運営の観点から、FRBがステーブルコインによるマクロ経済的影響を正確に把握する必要があると強調しました。
特に、中立金利(r*)の低下が続けば、政策金利がゼロ金利制約(ZLB)に達する頻度が高まり、景気刺激策の余地が狭まる可能性があると警鐘を鳴らしています。
講演の結びで同氏は「ステーブルコインの普及は米国および海外の金融政策運営に新たな変化をもたらす」と述べ、FRBがこの分野の研究と監視を今後も強化していく方針を示しました。
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Source:FRB公式声明
サムネイル:AIによる生成画像




























