この記事の要点
- BISが匿名CBDC試作品を開発、検証結果を公表
- 現金並みの匿名性と規制順守の技術的両立を提示
BISら4機関、匿名決済の試作品を公表
国際決済銀行(BIS)イノベーション・ハブの香港センターは2026年10月13日、現金に近い匿名性と規制順守の両立を目指すデジタル通貨の試作品を開発し、その検証結果をまとめた報告書を公表しました。
香港金融管理局(HKMA)、香港理工大学、香港応用科技研究院(ASTRI)との共同研究によるもので、現金のように支払いの詳細を第三者に知られない仕組みを、デジタル通貨でも実現できるかが検証されています。
その実現には、利用者のプライバシーを守るだけでなく、マネーロンダリング防止(AML)やテロ資金対策(CFT)といった規制要件にも対応する必要があり、両者の両立が研究の中心となっています。
この課題に対して研究チームは、複数の暗号技術を組み合わせ、日常的な支払いでは氏名や口座番号などを取引相手に開示せず、必要に応じて銀行を通じた本人確認や不正取引への対処を可能にする設計を示しました。
BISは、プライバシー保護と規制順守を技術的に両立できる可能性を示した一方、試作品はまだ実用化できる段階になく、各国の中央銀行がデジタル通貨の設計を検討するための研究成果と位置づけています。
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3つの暗号技術で匿名決済を設計
取引ごとに仮名を変更、利用者の特定を防止
BISの報告書では、「利用者の身元情報を隠すBBS+署名」「決済内容を秘匿したまま取引の正当性を証明するゼロ知識証明(ZKP)」「銀行間の台帳を分離する暗号化」の3技術が、匿名決済を支える柱として採用されています。
BBS+署名を用いた方式では、銀行が本人確認を済ませた利用者に認証情報を発行し、取引ごとに異なる仮名を生成することで、加盟店などの第三者による決済履歴の追跡を防ぐ設計となっています。
ただし、仮名を変更するだけでは送金記録から取引同士を結びつけられる可能性があるため、研究チームはZKPを組み合わせ、送金額や支払者の識別情報を開示せずに取引の正当性を証明する仕組みを設けました。
取引情報の管理についても、中央銀行が小売決済の台帳に直接アクセスできないようにし、各銀行の台帳を互いに分離することで、単一の主体が利用者の決済履歴を集約できない設計が採用されています。
匿名ウォレットや部分凍結で柔軟に対応
決済情報の秘匿と規制順守を両立させるため、利用者の本人確認(KYC)情報は認可を受けた銀行が保管し、法的に必要な場合には、その銀行を通じて利用者の身元を確認できる設計となっています。
報告書では、通常の本人確認手続きに慎重な観光客などの利用も想定し、残高や取引額に制限を設けた匿名ウォレットを検証しており、モバイル端末との紐づけなどによって個人情報の開示を抑えた少額決済にも対応する設計が示されています。
こうしたプライバシー保護と並行して、不正取引が疑われる場合には、ウォレット全体を凍結するのではなく、特定のコイン(UTXO)だけをロックする「部分凍結」も採用されました。
これにより、問題のある資金以外は引き続き使用できるとされ、BISは各国の法制度やリスク許容度に応じて、本人確認の厳格さや資金の利用制限を調整できるとしています。
処理負荷と鍵紛失が実用化の課題に
プライバシーと規制順守の両立が技術的に示された一方、報告書では実用化に向けた制約として、ZKPの証明生成に伴う処理負荷が指摘されています。
GPUによる高速化を適用した後も、ZKPの証明生成には入力コイン1枚の取引で約0.4秒、20枚を使用する取引では約1.76秒を要し、処理速度を優先する一括取引では一部の決済情報を関連付けられるなど、性能と匿名性の間にトレードオフが確認されました。
利用者の資金管理にも制約があり、匿名性を最大化したウォレットでは秘密鍵などを失った場合に資金を回復できず、現金を紛失した場合と同様のリスクが生じるとしています。
さらに、利用者のシステムへのアクセスは本人確認を行った銀行に依存しており、その銀行が利用できなくなった場合に備え、別の金融機関へアクセス権を移せる仕組みも今後の検討事項として挙げられています。
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米欧で分かれるCBDC政策と技術的関心
CBDC(中央銀行デジタル通貨)のプライバシー保護を巡っては各国で政策姿勢が分かれており、欧州中央銀行(ECB)はデジタルユーロの設計で個人情報の保護を重視し、オフライン決済では支払者と受取人だけが取引の詳細を把握できる方式を目指しています。
一方、米国ではトランプ大統領が2025年1月23日に署名したデジタル資産関連の大統領令で、CBDCが個人のプライバシーや金融システムに及ぼすリスクを理由に、連邦政府機関による発行・推進などを原則として禁止する方針を打ち出しました。
BISの報告書もデジタルユーロのプライバシー設計に言及しており、中央銀行が利用者の決済情報を保護しながら、必要な規制上の管理を維持するための技術的な選択肢を検証しています。
Project Aurum第2段階の設計文書とコードはBIS Open Techを通じて各国の中央銀行に提供されており、実用化に向けた技術的な制約を残しながらも、プライバシーと規制順守の両立を検証した研究成果が共有されています。
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Source:BIS報告書
サムネイル:AIによる生成画像




























