株式や社債、不動産の受益権などをブロックチェーン上で扱う「セキュリティトークン(ST)」の発行が、国内でも進んでいます。
STは、有価証券に表示される権利を電子的に移転できるようにしたデジタル証券で、ビットコイン(BTC)などの仮想通貨とは異なり、金融商品取引法に基づく規制の対象となります。
国内では不動産を対象としたSTの発行が先行しており、2023年8月には134億円の資金調達を実現した当時過去最大規模の案件も登場しました。
こうした発行には証券会社や信託銀行、不動産運用会社が関わり、従来の証券市場で培われた仕組みがブロックチェーン上にも取り入れられています。
この記事では、STによる資金調達手法「STO」の仕組みをはじめ、金融商品取引法に基づく規制、不動産STの発行事例、税制、RWAトークン化との違いを解説します。
セキュリティトークン(ST)とは?デジタル証券の仕組みと特徴
STの定義と法的な位置づけ
日本STO協会は、セキュリティトークン(ST)を、株式や社債などの有価証券に表示される権利を電子的に移転できるようにしたものと説明しています。
従来の証券との大きな違いは、ブロックチェーンを利用して権利の保有状況や移転履歴を記録・管理する点にあり、証券が持つ権利そのものが新しくなるわけではありません。
日本では2020年5月に施行された改正金融商品取引法で「電子記録移転有価証券表示権利等」が定義され、STにも有価証券としての規制が適用されることが明確化されました。
仮想通貨との違い
ビットコインなどの仮想通貨(暗号資産)との違いは、投資家が保有する権利にも表れています。
ビットコインは特定の発行体に対する配当請求権や償還請求権を持たない一方、STでは株式の配当や社債の利払い、不動産収益の分配など、対象となる有価証券に応じた権利が投資家に認められます。
STの価格や収益は、発行体の信用力や裏付け資産の収益性などに左右されるため、仮想通貨とは異なる評価基準が用いられます。
STが対象とする資産の種類
STとして扱われる権利は、不動産信託受益権のほか、社債や株式、ファンドへの出資持分など多岐にわたります。
国内では不動産を対象とした発行が先行していますが、社債型のSTも登場しており、企業の資金調達手段として利用されています。
不動産STでは賃料収益などを分配原資とする商品がある一方、社債型STでは発行体が約束した利息や償還金の支払いが中心となるため、投資家が取得する権利や負担するリスクも異なります。
STOとは?ICO・IEOとの違いと資金調達の特徴
有価証券をトークン化して資金調達
STO(セキュリティ・トークン・オファリング)は、株式や社債、信託受益権などに表示される権利をトークン化し、投資家に販売して資金を調達する手法です。
従来の証券発行と同様に金融商品取引法の規制を受けるため、発行する有価証券の種類や募集方法に応じて、開示や販売に関する手続きが求められます。
発行体はこうした手続きを経て投資家から資金を調達し、取得した投資家は株式や社債、信託受益権などの商品設計に応じた権利を保有します。
ICO・IEOとの違い
STOと比較される資金調達手法には、独自トークンを発行して資金を集めるICO(イニシャル・コイン・オファリング)と、暗号資産交換業者が審査や販売に関与するIEO(イニシャル・エクスチェンジ・オファリング)があります。
日本STO協会の解説によると、ICOは2018年頃に海外で注目を集めましたが、当時は法規制の整理が十分に進んでおらず、事業実態のない詐欺的な案件が問題となりました。
日本ではその後、発行するトークンの法的性質に応じて、暗号資産などには資金決済法、有価証券に該当するものには金融商品取引法を適用する制度が設けられています。
STO・ICO・IEOの主な違いは次のとおりです。
| 項目 | STO | ICO | IEO |
|---|---|---|---|
| 発行物 | 有価証券型トークン | 独自トークンなど | 独自トークンなど |
| 主な規制 | 金融商品取引法 | トークンの性質に応じた法規制 | 主に資金決済法・自主規制 |
| 販売方法 | 証券会社などを通じた販売 | 発行体による販売など | 暗号資産交換業者を通じた販売 |
STOの仕組み:証券の発行から償還まで
ブロックチェーン上での発行・権利管理
STの発行では、発行体が権利の内容や償還条件などを定め、証券会社や信託銀行などが組成・販売に関わります。
投資家への販売にあたっては、STプラットフォーム上で権利を表すトークンが発行され、投資家の保有状況や権利の移転が電子的に記録されます。
従来の上場株式などでは証券保管振替機構を通じて権利を管理する仕組みが使われていますが、STではブロックチェーン上の記録と権利移転を連動させることで、管理手続きの効率化が期待されています。
また、スマートコントラクトを用いて権利の移転や管理に関する処理を自動化できる点も特徴で、分配金の支払いや償還に関する事務の一部にも応用されています。
国内の証券会社が参加する「ibet for Fin」
こうしたSTの発行・管理を支える国内のブロックチェーン基盤の一つが「ibet for Fin」です。
ibet for Finの発足を伝えるa href=”https://bittimes.net/news/109001.html”>記事によると、SMBC日興証券、SBI証券、野村證券、BOOSTRYの4社は2021年4月1日にコンソーシアムを設立し、同年6月に運営開始を発表しました。
同基盤は、複数の金融機関などが共同でネットワークを運営するコンソーシアム型のブロックチェーンを採用しており、基本システムのソースコードも公開されています。
金融機関が共通の技術基盤を利用することで、STの発行・管理に必要なシステムの個別開発負担を抑えられるほか、異なる事業者間での取引や権利管理にも利用できる設計となっています。
この基盤は不動産STの公募発行にも採用されており、金融機関による証券の発行・管理に利用されています。
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セキュリティトークンのメリットと課題|小口投資と二次流通
小口化によって個人投資家にも投資機会
STでは、数十億円規模の不動産など、従来は機関投資家や富裕層が主な投資主体だった資産も、権利を小口化することで個人投資家が購入しやすい商品として設計できます。
実際に国内では、数十万円程度から申し込める不動産STも登場しており、従来の不動産私募ファンドと比べて少額から投資できる商品が提供されています。ただし、最低投資額は案件によって異なり、すべてのSTが少額投資に対応しているわけではありません。
発行体にとっても、個人投資家を含む幅広い層から資金を調達できるほか、ブロックチェーンを利用した権利管理や分配事務の効率化によって、運用コストを削減できる可能性があります。
小口化が進む一方で売却の難しさが課題に
STは小口化によって購入のハードルを下げられる一方、購入後の売却手段が限られるという課題があります。
上場株式と異なり、継続的に売買できる市場が用意されていない商品もあり、償還までの保有や取扱会社を通じた売却が必要になる場合があります。
この課題に対応するため、2023年12月25日には大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)が運営する私設取引システム「START」で、国内初となるSTのセカンダリー取引が始まりました。
ODX STARTの取引開始を伝える記事によると、SBI証券も同日からSTの売買取次ぎを開始しており、市場全体では不動産STの2銘柄が取引対象となりました。
STARTの開設によって取扱銘柄の売却手段は増えましたが、売買が成立するかどうかは市場の取引状況に左右されるため、換金性にはなお制約が残ります。
発行体や裏付け資産に応じた投資リスク
売却時の流動性だけでなく、STには裏付け資産や発行体に由来するリスクもあります。
社債型STでは発行体の信用力、不動産STでは賃料収入や物件価格の変動などが収益や償還に影響し、想定した分配金を受け取れない場合や元本割れの可能性もあります。
また、売却可能な市場があっても希望する価格で取引が成立するとは限らず、裏付け資産のリスクに加えて、売却時の流動性も投資判断に関わります。STにはこうした投資リスクがあるため、投資家への情報開示や販売・勧誘に関するルールが重要になります。
日本のST規制と日本STO協会の役割
金融商品取引法に基づく発行・販売規制
日本では2020年5月に施行された改正金融商品取引法によって、電子記録移転権利に関する規制が整備されました。
株式や社債などをトークン化した有価証券に加え、信託受益権やファンド持分をトークン化した電子記録移転権利も、原則として第一項有価証券に相当する規制を受けます。
これらの有価証券の売買や募集の取扱いなどを業として行うには、原則として第一種金融商品取引業の登録が必要となり、発行時の情報開示や販売・勧誘にも規制が適用されます。
ただし、流通範囲を制限するなど一定の要件を満たす「適用除外電子記録移転権利」は、第二項有価証券として扱われる場合があります。
仮想通貨にも別の規制が設けられており、暗号資産の金商法改正に関する議論が進められていますが、STはすでに有価証券として金融商品取引法の枠組みに組み込まれています。
日本STO協会とJVCEAの役割の違い
STの発行・販売に関する自主規制を担う団体の一つが、日本STO協会です。
同協会は電子記録移転権利などを扱う金融商品取引業者を対象に自主規制ルールを定めており、株式や社債などのトークン化有価証券については、日本証券業協会が自主規制を担っています。
これに対し、JVCEA(日本暗号資産等取引業協会)は、暗号資産交換業者などを対象とする自主規制団体として活動しています。
JVCEAは2024年10月に従来の「日本暗号資産取引業協会」から名称を変更し、暗号資産交換業に加えて、ステーブルコインなどに関わる電子決済手段等取引業についても自主規制業務を担う体制となりました。
日本STO協会による自主規制と市場統計
日本STO協会の公式サイトによると、同協会は2019年10月に設立され、2020年4月30日に金融庁から金融商品取引法第78条第1項に基づく認定金融商品取引業協会として認定されました。
同協会は翌5月1日に自主規制業務を開始し、その後は日本証券業協会と共同でST市場の取扱状況を公表する取り組みも始めています。
この統計は2024年4月分から公表されており、トークン化有価証券や電子記録移転権利の発行・取扱動向を確認できる資料となっています。
2026年10月1日に公表された同年8月分の統計では、証券会社などによるトークン化有価証券と電子記録移転権利の取扱状況がまとめられています。
不動産セキュリティトークンの発行事例|ケネディクスの大型案件
2023年に134億円の不動産STを発行
2023年8月31日に発行が完了した不動産STには、ケネディクス、みずほ信託銀行、野村證券、みずほ銀行が参画しています。
ケネディクスの発表によると、東京都心の超高層賃貸マンションを投資対象とする不動産STで、公募発行額は134億円に達し、当時の国内過去最大規模を記録しました。
この案件では、不動産信託受益権を信託財産とする受益証券発行信託を組成し、ブロックチェーン基盤「ibet for Fin」で証券情報や取引情報を管理しています。
大型不動産への投資を小口化することで、一般投資家にも単一の不動産物件から生じる収益を受け取る機会が提供されました。
2024年には賃貸戸建「Kolet」も対象に
ケネディクスは翌2024年、超高層マンションとは異なる賃貸戸建住宅を対象とした不動産STの発行にも関わっています。
2024年7月9日の発表によると、ケネディクス、SMBC信託銀行、野村證券、BOOSTRYの4社は、賃貸戸建ブランド「Kolet」を対象とした国内初の不動産STの公募発行を完了しました。
同案件では、複数の賃貸戸建住宅からなる不動産ポートフォリオを投資対象とし、2023年の大型案件と同じ「ibet for Fin」を使って証券情報や取引情報を管理しています。
ケネディクスの発表では、SMBC信託銀行が受託者、野村證券が引受・販売などを担い、BOOSTRYがブロックチェーン関連技術を提供する体制も示されました。
RWAトークン化とSTの違い|トークン化株式との関係
RWAは現実資産のトークン化を指す広い概念
不動産STは、現実世界の資産をブロックチェーン上で扱うRWA(現実資産)のトークン化にも含まれる取り組みです。
RWAトークン化とは、不動産や債券、金などのコモディティ、美術品といった現実世界の資産や、それらに関連する権利をブロックチェーン上で扱う仕組みを指します。
このうち、有価証券に該当する権利をトークン化したものがSTと呼ばれ、日本では金融商品取引法に基づく規制の対象となります。
例えば、不動産の信託受益権をトークン化した商品はSTに該当しますが、金などの現物資産と交換できるトークンについては、その権利の内容や商品設計によって法的な扱いが異なります。
トークン化株式は保有者の権利によって分類
株式を対象とするトークン化商品では、投資家が取得する権利の違いが重要になります。株式をブロックチェーン上で扱うトークン化株式は、従来の株式に表示される権利をトークン化する方式のほか、株価に連動する別の金融商品として発行される方式もあります。
株価に連動する金融商品の場合、保有者が対象企業の議決権や配当請求権を直接取得するとは限らず、株式そのものをトークン化した商品とは投資家の権利や適用される規制が異なります。
日本で発行されるSTも、金融商品取引法上の分類だけでなく、裏付けとなる権利の種類によって商品内容が変わり、その違いは投資家に適用される税制にも関係します。
セキュリティトークン投資の税金と課税方式
STの種類によって所得区分や税率が異なる
STの種類による違いは、分配金や売却益に適用される税制にも表れます。国税庁のタックスアンサーNo.1463によると、上場株式等の譲渡益には原則20.315%の申告分離課税が適用されますが、すべてのSTが同じ課税方式になるわけではありません。
例えば、不動産STでも公募型の特定受益証券発行信託を利用する商品と、匿名組合出資持分をトークン化した商品では、分配金や譲渡損益に対する課税の扱いが異なります。
日本STO協会が金融庁の会議で示した資料では、前者は一定の条件下で上場株式等と同様の申告分離課税や損益通算の対象となる一方、後者は原則として総合課税となることが説明されています。
また、ビットコインなどの仮想通貨は、個人の売却益が原則として雑所得に区分され、総合課税の対象となる点でもSTと異なります。
こうした税務上の違いは、STと仮想通貨の両方に投資する場合にも関係します。仮想通貨の所得区分や申告方法については、暗号資産の税金で詳しく取り上げています。
STの購入や売却に伴う課税、損益通算、損失の繰越控除については、個別商品の開示資料と国税庁の案内に基づく確認が求められます。
セキュリティトークン|よくある質問(FAQ)
Q1. セキュリティトークンと仮想通貨は何が違う?
STは株式や社債、不動産の受益権などに表示される権利をトークン化した有価証券で、金融商品取引法の規制対象となります。一方、ビットコインなどの仮想通貨は、特定の発行体に対する配当請求権や償還請求権を持たず、主に資金決済法に基づく規制を受けます。
Q2. STOは誰でも参加できる?
STOには一般の個人投資家が参加できる公募案件もあります。ただし、適格機関投資家などに販売対象を限定した案件もあり、参加条件は商品や募集方法によって異なります。
個人投資家が購入する場合は、取扱証券会社の口座開設や所定の手続きが必要となることがあるため、募集条件を事前に確認する必要があります。
Q3. 不動産STと不動産投資信託(REIT)はどう違う?
不動産STは、特定の不動産や不動産ポートフォリオに関連する権利をトークン化した商品です。一方、REITは投資家から集めた資金で不動産などを保有・運用する投資信託や投資法人の仕組みで、複数の物件に分散投資する商品が一般的です。
上場REITは証券取引所で売買できますが、不動産STは商品ごとに売却手段が異なります。そのため、投資対象の分散状況や換金性に違いがあります。
Q4. セキュリティトークンの売買に手数料や制約はある?
STには、証券会社が定める売買手数料や、譲渡先・売却時期に関する制約が設けられる場合があります。ODXの「START」で取引できる銘柄もありますが、すべてのSTが二次流通市場で売買できるわけではありません。
手数料や売却条件は商品ごとに異なるため、購入前に取扱会社の資料で確認する必要があります。
Q5. セキュリティトークンに投資する際、最初に確認すべきことは?
最初に確認すべきなのは、投資対象となる資産と、保有によって得られる権利の内容です。不動産STであれば賃料収入や物件の売却価格、社債型STであれば発行体の信用力が収益や償還に影響します。
そのうえで、分配金の支払条件、償還時期、元本割れの可能性、途中売却の可否を確認し、自身の投資期間や資金計画と照らし合わせる必要があります。
セキュリティトークンまとめ
セキュリティトークン(ST)は、株式や社債、不動産の受益権などをブロックチェーン上で扱うデジタル証券です。日本では2020年5月の改正金融商品取引法施行によって法的な位置づけが明確化され、証券会社や信託銀行などが発行・管理に関わっています。
国内では不動産STの発行が先行し、2023年にはケネディクスなどが134億円規模の大型案件を実施しました。翌2024年には賃貸戸建「Kolet」を対象とする商品も発行され、ブロックチェーン基盤「ibet for Fin」を利用した資金調達が行われています。
発行市場に続いて二次流通の仕組みも登場し、2023年12月には大阪デジタルエクスチェンジの「START」でSTの売買が始まりました。ただし、取扱銘柄や売買の成立状況には制約があり、上場株式と同等の流動性が確保されているわけではありません。
STはRWAトークン化と重なる領域を持ちますが、有価証券に表示される権利を扱う点で区別されます。税制についても、権利の種類や発行スキームによって所得区分や損益通算の条件が異なります。
投資判断では、裏付け資産の収益性や発行体の信用力に加え、分配条件や償還時期、途中売却の可否が重要になります。ブロックチェーンによる証券管理の効率化が期待される一方、元本割れや換金の難しさといった従来の証券投資と共通するリスクは残ります。






























