仮想通貨300ドル以下の取引を非課税に
米ワイオミング州選出のシンシア・ルミス上院議員(共和党)は2025年7月3日、仮想通貨の少額取引を非課税とすることを柱としたデジタル資産税制の包括的な改革法案を発表しました。
同法案は、仮想通貨ユーザーの税負担を軽減し、現行の税制度をデジタル経済に対応させることを目的としています。
その一環として、1回の取引につき300ドル(約4万3,000円)以下の仮想通貨取引による利益を課税対象から除外する「デ・ミニミス(少額)規定」が盛り込まれました。
また、年間累計で最大5,000ドル(約72万円)までの仮想通貨取引による利益は非課税としており、この非課税枠は2026年以降、インフレ率に応じて自動的に調整される仕組みが導入される見通しです。
さらに、仮想通貨のマイニング報酬やステーキング報酬については、取得時点ではなく、売却または処分したタイミングで課税が発生する制度への見直しが提案されています。
これにより、長年課題とされてきた未実現利益に対する二重課税が解消され、保有中の仮想通貨に対する過度な納税義務の発生を防ぐ仕組みが整えられることになります。
ルミス議員は声明の中で次のように述べています。
デジタル経済に対応する税制へと変革しなければ、時代遅れの税政策が米国のイノベーションを妨げる可能性があります。
私の法案は、アメリカ国民が意図せず税法違反に問われることなくデジタル経済に参加できる環境を実現します。
ルミス議員、過剰な規制に警鐘
ルミス議員、仮想通貨税制の抜本的見直しへ
法案成立への新たなアプローチ
ルミス議員は以前から、仮想通貨に対する課税制度の不備を指摘し、是正を求めてきました。今回の法案は、連邦予算案への修正案として検討されていた仮想通貨税制緩和策を、単独の法案として改めて提出したものです。
7月1日に上院で可決された、トランプ大統領主導の大型予算・減税法案「ビッグ・ビューティフル・ビル」には、仮想通貨マイニングやステーキング報酬の課税見直しといった、ルミス議員が提案していた修正案は反映されませんでした。
この修正案には、マイニングやステーキング報酬への課税を売却時のみに限定する措置や、1取引につき300ドル未満(年間5,000ドルまで)の利益に対する非課税枠の導入が含まれていました。しかし、これらが法案に盛り込まれなかったことに対して、仮想通貨業界からは失望の声が相次ぎました。
ルミス議員は採決当日、自身のX(旧Twitter)で「マイナー(採掘者)とステーカー(預託者)は、長年にわたり報酬の受け取り時と売却時の二重に課税されてきた。この不公平な課税制度を終わらせ、アメリカが仮想通貨分野で世界をリードする立場を確立しなければならない」と投稿し、二重課税の是正を改めて強調しました。
二重課税の解消と公平な課税制度の整備
こうした税制上の不公平や二重課税の問題に対応するため、今回の新法案には包括的な是正措置が盛り込まれています。
法案には、前述の少額取引に対する非課税措置(デ・ミニミス規定)や、マイニングおよびステーキング報酬の課税繰り延べに加え、仮想通貨の貸借取引(レンディング)を証券取引と同様に非課税扱いとする内容も含まれています。
さらに、仮想通貨にも証券と同様の30日ルール(ウォッシュセール規制)を適用し、損失を利用した不適切な節税を防止する仕組みも盛り込まれました。
トレーダー向け税制度の柔軟化
また、デジタル資産ディーラー(専門業者)やトレーダーが、保有資産を期末の時価で評価し損益を計上する「マーク・トゥ・マーケット税制」を選択できるようにする制度も導入されます。
加えて、活発に取引されている仮想通貨を慈善団体に寄付する際には、従来必要だった鑑定評価証明を不要とし、公正な市場価格による評価が可能となる仕組みも含まれています。
米議会税制委員会(JCT)は、これらの税制変更によって2025年から2034年の10年間で約6億ドル(約867億円)の歳入増加につながると見込んでいます。
ルミス議員は「本法案について広く国民から意見を募りたい」と述べており、寄せられた声を反映させながら法案の成立を目指す考えを示しています。
米上院、トランプ大統領の減税法案を可決
米国で進む仮想通貨関連法案の動向
ステーブルコイン規制の枠組みを整備する「GENIUS法案」
米国では今回のルミス議員による税制改革法案のほかにも、仮想通貨に関連する複数の法案が審議・採決の段階に進んでいます。
6月17日には、米ドルに連動するステーブルコインに対する規制枠組みを整備する「GENIUS法案」が、上院本会議で賛成68票・反対30票の超党派の賛成多数で可決されました。
法案が成立した場合、ステーブルコインの発行体には、米ドル現金や短期国債などの裏付け資産による100%の準備金を保有し、その内訳を毎月開示する義務が課されることになります。
トランプ政権は、このステーブルコイン規制法案を8月までに成立させる方針を示しています。また、昨年下院を通過しながらも棚上げとなっていた同様の規制整備についても、実現に向けた動きが再び加速しています。
証券/商品を明確化する「CLARITY法案」
5月29日には、米下院の農業委員会や金融サービス委員会などが主導し、デジタル資産市場の規制を明確化するための「デジタル資産市場透明性法案(CLARITY法案)」が提出されました。
同法案では、仮想通貨が証券に該当するのか、あるいは商品(コモディティ)に分類されるのかという基準を定め、米証券取引委員会(SEC)と商品先物取引委員会(CFTC)の管轄範囲を明確に区分することが盛り込まれています。
これまで規制の不透明さにより、多くのアルトコインが「未登録証券」と見なされ、訴訟リスクに直面していました。
CLARITY法案では、証券と商品の定義を明確にし「証券ではない」仮想通貨を正式に認定する可能性が示されており、停滞していたデジタル資産ビジネスの再活性化に向けた重要な一歩と見られています。
公職者の仮想通貨利得を制限する「COIN法案」
さらに6月24日には、野党・民主党のアダム・シフ上院議員(カリフォルニア州)が、トランプ大統領(共和党)の仮想通貨ビジネスへの関与を規制する「COIN法案」を提出しました。
同法案は、大統領や副大統領、連邦議員、政府高官とその家族が、在任中および退任後の一定期間に仮想通貨関連事業から私的利益を得ることを禁じる内容となっています。これは、公職を利用した利得追求を防ぐための倫理規定を強化することを目的としています。
背景には、トランプ大統領が関与したとされる仮想通貨関連事業で巨額の利益を得ていたとされる疑惑があり、同法案は与野党間の対立をさらに深める要因にもなっています。
米議会では現在、2025年度予算の成立に向けた審議が最優先とされています。このため、仮想通貨に関連する各法案の本格的な審議や採決は、2025年後半以降に先送りされる見通しです。
仮想通貨業界が求めてきた包括的なルール整備は着実に進展しつつありますが、各法案の成立には引き続き時間を要すると見られています。
※価格は執筆時点でのレート換算(1ドル=144.59 円)
仮想通貨関連法案の注目記事はこちら
Source:シンシア・ルミス上院議員プレスリリース
サムネイル:AIによる生成画像




























