ブロックチェーン技術で変革する金融インフラ
米Ripple(リップル)社が発表した最新レポート「Banking on Digital Assets」によると、2020年から2024年の間に、世界の銀行がブロックチェーン関連企業へ投資した総額が1,000億ドル(約14.8兆円)を超えたことが明らかになりました。
同レポートでは、ブロックチェーン技術の導入が国際送金や資産管理の効率性を高め、金融インフラの構造自体を大きく変えつつある実態が示されています。
ブロックチェーンを活用することで、資産のトークン化による権利の細分化や発行者と投資家の直接的なマッチングが可能となり、取引の高速化・手数料削減や投資機会の拡大につながっています。
また、仮想通貨(暗号資産)によるグローバル送金や、条件付きで自動実行されるスマートコントラクトの活用も有望な事例とされており、これらは既存の金融サービスを急速に変革する原動力となっています。
さらに、2025年第1四半期時点で世界のステーブルコイン取引量は月間6,500〜7,000億ドル(約96兆〜104兆円)に達しており、今後もブロックチェーンがもたらす効率性によって取引規模は拡大すると予測されています。
ブロックチェーンが変える金融の未来
ブロックチェーン技術で進化する銀行業界の投資戦略
主要銀行がブロックチェーン投資、投資先企業の成長を支援
同レポートによれば、2020年から2024年にかけて世界の銀行は合計345件のブロックチェーン関連スタートアップ投資に参加しており、その多くはシードやシリーズAなど初期段階の資金調達でした。
これは、業界が依然として黎明期にある一方で、銀行が仮想通貨の統合に向けて積極的に動き出している実情を反映しています。
銀行が関与した大型資金調達(1億ドル以上)も33件確認されており、用途別ではトレーディングやステーキング、トークン化といった取引基盤関連が27%を占め、続いて決済が24%、仮想通貨の保管(カストディ)分野が21%となっています。
米国と日本が牽引する、銀行のブロックチェーン投資動向
地域別に見ると、銀行によるブロックチェーン関連投資の中心は米国と日本であり、シンガポール、フランス、英国がそれに続いています。
特に日本の金融大手SBIホールディングスと米ゴールドマン・サックスは積極的な投資家として挙げられました。
また、タイの大手企業SCBXグループの投資部門であるSCB 10Xも、積極的な投資活動を展開しています。
銀行の仮想通貨導入、フィンテック企業との連携による成長
報告書では、事例の一つとしてブラジルのフィンテック企業CloudWalkが取り上げられています。同社はブロックチェーン技術で国内の加盟店向け決済を効率化しており、2024年には複数の大手銀行から巨額の資金提供を受けました。
日本のSBIホールディングスは2024年、ドイツの金融プラットフォーム「Solaris」に対するシリーズF-II資金調達を主導し、約1億ドル(約148億円)を出資しました。
Solarisは、ドイツ国内で仮想通貨の取引基盤を提供する企業であり、SBIはその後、同社の株式過半数を取得しています。
2021年には、ニューヨーク・デジタル投資グループ(NYDIG)が10億ドル(約1,480億円)の資金調達を実施し、マスミューチュアル、ニューヨーク・ライフ、モルガン・スタンレーなどの米大手金融機関が参加しました。
また、同年3月にはモルガン・スタンレーが、米国の銀行として初めて富裕層顧客に対してビットコインファンドへの投資機会を提供しています。
ブロックチェーン技術がもたらす金融革命
さらに、リップル社が世界の金融業界関係者1,800名以上を対象に実施した調査では、90%以上が「今後3年間でブロックチェーンや仮想通貨が金融に大きなまたは極めて大きな影響を与える」と回答しました。
また、リップル社とボストン・コンサルティング・グループ(BCG)は2033年までにトークン化資産市場が18兆ドル(約2,650兆円)規模に達すると予測しており、その年平均成長率(CAGR)は53%に達する見通しです。
これらのデータは、金融業界においてブロックチェーン技術に対する期待と前向きな見方が広がっていることを示しています。仮想通貨はもはや投機対象にとどまらず、将来の金融インフラを支える基盤技術へと変化しつつあります。
銀行各社も競争力を維持するため、フィンテック企業との提携や新サービスの開発に積極的に取り組んでいます。
米企業でブロックチェーン活用が急増
銀行業界が2025年に見せる仮想通貨への本格的なシフト
2025年に入り、世界各国の銀行業界では仮想通貨の導入が急速に進んでいます。
米国では金融規制当局が銀行の仮想通貨事業参入に対する姿勢を転換しつつあり、2025年5月には、米通貨監督庁(OCC)が国法銀行による仮想通貨のカストディ(保管)および取引サービスの提供を正式に認可しました。
シティグループ、ステーブルコイン発行を検討
こうした規制環境の変化を背景に、米大手銀行のシティグループは2025年7月16日、独自ステーブルコインの発行を検討していることを公表しました。
シティグループのジェーン・フレーザーCEOは、第2四半期決算後の電話会議において、米国政府が銀行による仮想通貨事業参入を後押しする方針を示したことに言及しました。
その上で、同社は特にトークン化預金の分野に注力していると説明しています。
スタンダード・チャータード銀行、BTC・ETH取引開始
イギリスでは、スタンダード・チャータード銀行が2025年7月15日、機関投資家向けにビットコイン(BTC)およびイーサリアム(ETH)の現物取引サービスを開始することを発表しました。
同銀行は、グローバルなシステム上重要な銀行(G-SIB)として初めて、機関投資家に対して仮想通貨の直接取引を提供する事例となりました。現在は、規制遵守を徹底した安全な取引環境の整備も進めています。
さらに今後は差金決済先物(NDF)の提供などサービス拡充も計画しており、ビル・ウィンターズCEOは、顧客からの仮想通貨需要が高まっていることを踏まえ「規制に準拠しつつ、安全かつ効率的にリスクを管理できる手段を提供していく」と述べています。
JPモルガン・チェース、コインベースとの提携を発表
また、米JPモルガン・チェースは2025年7月30日、米大手仮想通貨取引所Coinbase(コインベース)との提携を発表し、自社の銀行口座とコインベースの仮想通貨ウォレットを直接接続するサービスを導入する計画を明らかにしました。
この連携により、同行の顧客は銀行口座から直接仮想通貨を売買できるようになり、2025年秋にはチェース発行のクレジットカードを通じてコインベース口座への直接入金が可能になる予定です。
さらに、ロイヤルティプログラムで貯めたポイントを仮想通貨に交換できる機能も導入予定で、これは米国の銀行として初の試みとされています。
銀行業界の進化、仮想通貨対応が生き残りの鍵
このように、主要銀行による仮想通貨サービスへの参入が相次ぐ中で「変化に対応できない銀行は10年後には市場から姿を消す可能性がある」といった警鐘も一部で鳴らされています。
伝統的な金融機関が仮想通貨技術を積極的に導入し、急速に進化する金融環境への適応を図る動きは、2025年現在、世界的な潮流となりつつあります。
※価格は執筆時点でのレート換算(1ドル=147.62 円)
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Source:Rippleレポート
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