この記事の要点
- BIS、仮想通貨指標に「最大6倍差」と指摘
- 送金額・時価総額の測定手法に幅のある推計を提案
BIS報告:仮想通貨指標は最大6倍ブレる
国際決済銀行(BIS)は2026年9月、仮想通貨(暗号資産)やステーブルコイン、DeFi(分散型金融)で使われる主要な指標について、測定手法や前提条件によって数値が大きく変わると指摘するワーキングペーパーを公開しました。
その一例として挙げられたのがビットコイン(BTC)のオンチェーン送金額で、取引データをどのように処理するかによって推計値に最大6倍の差が生じると報告されています。
こうした差が生まれる理由について、論文は公開されたブロックチェーンの記録と実際の経済活動が必ずしも一致せず、基盤となる仕組みや利用者の行動によって集計結果が変わると説明しています。
このため著者らは、市場規模や送金額などの指標を単一の正確な数値として扱うのではなく、一定の不確実性を含む近似値として捉える必要があるとしています。
分析には、ビットコイン・イーサリアム(ETH)・トロン(TRX)の3チェーンから収集した計1,000億件のデータレコードが用いられ、送金額や時価総額、ステーブルコイン活動などの測定上の課題が検証されました。
「資本規制はステーブルコインに無力」
オンチェーン指標が揺れる3つの測定課題
BTC送金額、自己送金の扱いで6倍差
ビットコインの送金額について論文は、UTXO(コインを使い切る単位で残高を管理する仕組み)の構造が、集計結果に大きな差を生む要因になっていると指摘しています。
UTXOでは、送金時に使わなかった残額が「お釣り」として送信者側へ戻るため、その金額を実際の送金額と区別できない場合があり、単純に合算すると送金額が実態より大きく算出されます。
著者らが全アウトプットを合算する上限値と、自己送金を除いた調整値などを比較したところ、調整後の送金額は上限値の最大6分の1まで縮小し、一般に報じられる送金額はこの上限値に相当すると報告されています。
同じBTCでも時価総額に最大4倍の差
測定方法による違いは取引額だけにとどまらず、同じビットコインでも市場規模をどの価格で評価するかによって大きな差が生じることが示されています。
現在価格で全供給量を評価する一般的な時価総額と、各コインが最後に動いた時点の価格を使う「実現時価総額」を比べると、価格急騰局面では前者が後者の最大4倍に達した一方、価格が大きく下落した2022年には実現時価総額が一時的に上回りました。
さらに15年以上動いていない約180万BTCを除外する試算も示されましたが、長期間休眠した後に再び動いたBTCも確認されており、著者らは保有資産の評価でも前提条件によって結果が変わることを示しています。
「何を数えるか」で変わるUSDTの実像
測定上の難しさはビットコインだけに限らず、テザー(USDT)でも確認されており、同じ名称やシンボルを使うトークンが多数存在することで、正規のコントラクトを見分けにくい実態が示されています。
イーサリアム上では正規のUSDTコントラクトが1つである一方、「USDT」のシンボルを使うトークンコントラクトは約7,000件に達し、6,750万件の稼働中コントラクトのうち5,400万件超が既定の技術分類に収まらないことも確認されています。
さらに正規のUSDTだけを見ても利用状況にはチェーンごとの差があり、スマートコントラクトが保有する割合はイーサリアムで2022年に20%を超え、その後15〜20%で推移したのち10〜15%へ低下した一方、トロンでは調査期間の大半で約1%にとどまりました。
論文は、イーサリアム上のUSDTが流動性供給や取引などのDeFi活動と強く結びつく一方、トロンでは送金や価値保存に関連する使われ方が多いとの見方を示しています。
このため著者らは、同じUSDTであってもチェーンごとに異なる経済活動を単純に合算すると、その用途の違いが一つの数字に覆い隠されると指摘しています。
公式統計の検証基盤にXRPL実証
「単一指標から幅のある推計へ」著者らが提案
論文は、ステーブルコイン市場が2025年末までに3,000億ドル(約46.6兆円)を超えるなか、経済活動を正確に把握するための測定手法が重要になっていると指摘しています。
そのうえで著者らは、単一の数値だけに依存せず、プロトコル固有の不確実性を反映した幅のある推計に加え、前提条件の明示、技術的な分類、チェーンごとの分解を組み合わせる手法を提案しました。
ただし今回の分析はBISのワーキングペーパーとして公開された研究であり、示された見解は著者個人のもので、BISや加盟中央銀行の公式見解を必ずしも反映するものではないと明記されています。
論文は、金融安定のモニタリングや決済監督、金融分析でオンチェーンデータを利用する際には、数字を経済活動の直接的な尺度として扱わず、分析目的に沿った測定方法と前提条件を明確にする必要があると結論づけています。
※価格は執筆時点でのレート換算(1ドル=155.22 円)
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Source:BIS Working Paper 1377
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