この記事の要点
- Amazon・ウォルマートが独自ステーブルコイン発行を検討
- カード手数料削減・資金回収の迅速化が目的
- 米議会ではステーブルコイン法整備が進展中
- AppleやGoogle、銀行など大手各社も導入を模索
米大手小売2社、決済向けステーブルコインを検討中
2025年6月14日、米小売大手Amazon(アマゾン)とWalmart(ウォルマート)が決済コスト削減を目的に、独自の米ドル連動型ステーブルコインの発行を検討していることが明らかになりました。
米経済紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によると、両社はクレジットカード利用時に発生する高額な処理手数料の負担軽減や支払い処理時間の短縮につなげる計画です。
なお、両社の検討はまだ初期段階であり、自社発行のトークンに限らず、外部企業のステーブルコイン活用についても選択肢に入れて検討を進めていると報じられています。
米テック大手もステーブルコイン導入を検討
ステーブルコイン導入で解決される小売業界の課題
決済コストに悩む小売業界の現状
小売各社がステーブルコイン導入に注目する背景には、長年の課題となっている「カード決済手数料の負担軽減」があります。
クレジットカードやデビットカード決済では、加盟店側が取引金額の1~3%を手数料としてカード発行銀行などに支払っており、大手小売店の場合この手数料額は年間で数十億ドル(数千億円規模)に達します。
実際、米連邦準備制度理事会(FRB)の調査によると、2021年に米国で発生したデビットカード等の年間手数料総額は約320億ドル(約4.6兆円)に上りました。
現金支払いであれば手数料負担はゼロですが、ステーブルコイン決済は現金に近い低コストで実現できるため、大手小売企業にとって莫大なコスト削減が期待できます。
資金回収の迅速化で運転資金効率アップ
決済スピードの面でも、ブロックチェーン上のステーブルコイン取引は数秒で完了するため、従来数日かかっていたカード決済の清算と比べて資金回収が大幅に早まり、運転資金の効率化につながります。
WSJの報道によると、Amazonではオンライン決済向けの自社コイン開発が検討されているほか、他社と共同で共通のステーブルコインを活用する案も浮上しています。
小売企業には、既存のステーブルコインを活用する方法と、独自発行する方法の2つの選択肢があります。
独自ステーブルコインが新たな収益源となる可能性
独自発行すれば、裏付け資産として預かる顧客資金の運用益(利息収入)を自社の新たな収益源とすることも可能であり、この点も両社が独自トークン発行を検討する動機の一つとみられています。
ただし、民間企業がステーブルコインを発行するためには規制の明確化が必要とされており、こうした背景から、米国ではステーブルコイン導入を後押しする法整備が進められています。
大手銀行が独自ステーブルコイン発行を検討
法整備進展でステーブルコイン実用化が加速
GENIUS法案の審議が加速
米議会では現在、民間企業が発行するステーブルコインのルール整備を目的とした「GENIUS法案」が審議中であり、米上院本会議での採決に向けた予備投票を68対30の賛成多数で可決しました。
この法案が成立すれば、企業が発行するステーブルコインに関する明確な法的枠組みが整い、大手小売企業による独自コイン導入の実現に近づくと期待されています。
ウォルマート、独自ステーブルコイン構想で金融改革へ
特にウォルマートは決済コスト低減に積極的で、GENIUS法案への修正を通じてクレジットカード業界の競争促進策を盛り込むようロビー活動を行っていると報じられています。
ウォルマートは以前から金融サービス分野への関心が高く、2019年にはブロックチェーン技術を活用した独自ステーブルコインの特許を出願しており、食品流通や物流管理、決済プロセスの自動化など、実際のビジネス領域でブロックチェーンを試験導入した実績があります。
Amazonも仮想通貨・ブロックチェーン技術活用を検討
一方Amazonも2021年7月にデジタル通貨・ブロックチェーン部門のプロダクト責任者求人を公開し、自社サービスへの仮想通貨(暗号資産)導入を模索していることが注目されました。
Amazonの広報担当者は当時「より高速かつ低コストな決済を実現する新技術をお客様に提供したい」と述べ、具体的な計画は否定したもののブロックチェーン技術による決済効率化への関心を示しました。
米ドルステーブルコインUSDCを発行するCircle(サークル)社のジェレミー・アレアCEOは、こうした動きについて「世界がこの新たなインターネット上の通貨へと繋がりつつある中で、大手企業との提携は非常に大きな機会だ」とコメントしており、主要テック企業や大手決済会社との協業に強い意欲を示しました。
Circle、新たな送金ネットワークを導入
米大手企業でステーブルコイン採用が拡大
今回報じられたAmazon・ウォルマートのケース以外にも、ステーブルコインを決済に活用する動きが世界の大手企業で相次いでいます。
Apple・Googleらテック企業4社も導入検討
今月6日には米経済誌フォーチュンの報道により、AppleやX(旧Twitter)、Airbnb、Google Cloudといった米テック大手4社が決済システムへのステーブルコイン導入に向け初期段階の協議を進めていることが明らかになりました。
関係者によれば、これら企業は取引手数料の削減や国際送金の効率化を主な目的としてステーブルコイン活用を模索しているとされ、米国でステーブルコイン規制が明確化しつつあることも後押し材料になっていると伝えられています。
実際、Google CloudのWeb3担当責任者リッチ・ウィドマン氏は「ステーブルコインは国際銀行間通信協会(SWIFT)の決済システム以来の大きな技術革新だ」と述べ、安全性が高く、常時稼働できる効率的な決済手段として期待を寄せています。
マスターカード、1億5,000万加盟店でステーブルコイン決済を導入へ
また、伝統的な決済プロバイダーもステーブルコイン決済の実用化を進めています。
クレジットカード大手マスターカード(Mastercard)は2025年4月28日、全世界約1億5,000万の加盟店ネットワークでステーブルコイン決済を可能にする計画を発表しました。
同社は仮想通貨取引所OKXや決済企業Nuvei(ヌーヴェイ)と提携し、ユーザーが自らの仮想通貨ウォレットから実店舗やオンライン加盟店で直接ステーブルコインによる支払いを行い、加盟店側もUSDコイン(USDC)などで代金を受け取れるシステムを構築するとしています。
このように、テック業界から金融業界まで幅広い分野でステーブルコイン採用の動きが広がっており、決済インフラの変革が今後さらに加速すると予想されています。
※価格は執筆時点でのレート換算(1ドル=144.14 円)
ステーブルコイン関連の注目記事はこちら
Source:WSJ報道
サムネイル:Shutterstockのライセンス許諾により使用





























