円高転換が招く円キャリー巻き戻しと暗号資産の変動
2025年12月1日、日本の金融市場では日本銀行(日銀)による利上げ観測が高まった影響で、長期金利の指標である10年国債利回りが約17年ぶりとなる1.8%超の水準に達しました。
この金利上昇を受け、長年にわたり日本で低金利の円を借りて海外のリスク資産に投資する「円キャリートレード」への関心が再び高まっています。
円キャリートレードの基本構造と市場への影響
円キャリートレードとは、金利の低い日本円で資金を調達し、それを米ドルに換えて米国の株式や債券、暗号資産といった高利回りの資産に投じる手法です。
この手法は、日本円の金利が極めて低く、為替相場が円安傾向にある状況で特に有効で、円で借りた資金を海外で運用することで利ざやを得ることができます。
しかし、日本で利上げが現実味を帯び円高に転じる局面では、投資家がリスク資産を売却して借入れた円を返済する動きが強まる可能性があります。
実際、植田和男日銀総裁が12月の金融政策決定会合で追加利上げの可能性に言及した直後、市場では日本国債の利回りが急騰し、トレーダーが円建て借入ポジションを解消した結果、米国株やビットコイン価格の下落が加速したと報じられています。
キャリー取引解消が強制清算を拡大
円キャリートレードの巻き戻しによるリスク回避の動きは暗号資産市場にも波及し、ビットコイン価格は12月2日に一時8万3,000ドル台まで急落しました。
借入金で保有されていた暗号資産のポジション約10億ドル(約1,550億円)相当が強制清算され、市場全体で売り圧力が強まったと報じられています。
円キャリートレード終焉で世界危機へ?
円キャリートレードが暗号資産市場を揺らす理由
日本の低金利が生んだ海外投資の拡大
マクロ経済指標プラットフォームのTruflationはX(Twitter)で、日本の超低金利政策が世界の投資マネーに与える影響について「日本の大手銀行や機関投資家は金利の低い円を借りて米国で運用し、その利ざやを稼いできた」と説明しています。
日本銀行は長年にわたり円安誘導を図る金融政策を維持してきたため、円建て借入を通じて海外資産に投資する戦略は「安全で容易な利益獲得手段」と見做されてきました。
金利上昇で強まる円キャリー解消リスク
この戦略は、円安基調と超低金利という前提が崩れない限り有効とされる一方、Truflationは、日本で金利上昇や円高への転換が示唆される場合、その有効性は揺らぐ可能性があると指摘しました。
円高転換が示唆されると、投資家は円建ての負債コスト増加や為替差損を回避するため、米国で保有する株式や債券、ビットコインなどを売却して円に戻す動きを強めるといいます。
こうした資金の本国回帰(レパトリエーション)が連鎖的に起これば、米国市場では株価やビットコイン価格が一段と下落し、同時に円相場が急騰する可能性もあります。
2024年の円キャリー巻き戻しが示した市場リスク
実際、2024年7月末に日銀が利上げを発表した際には、円キャリートレードの急激な巻き戻しが発生し、ビットコイン価格が数日で約24%暴落するなど世界市場に波乱が広がりました。
市場関係者からは「今回の調整は昨年ほど大規模ではないものの、円キャリー取引の解消が今後も続けば世界のリスク資産全体に下押し圧力となり得る」との指摘も出ています。
950億円規模の清算が市場を揺るがす
円キャリートレード終了観測とビットコイン相場の不安
著名投資家ロバート・キヨサキ氏は11月29日、自身のX(旧Twitter)投稿で「30年間続いた円キャリートレードの終了と世界的な資産バブルの崩壊」を指摘し、資産防衛策として金や銀に加えビットコインやイーサリアム(ETH)の購入を推奨しました。
実際、米国のビットコインETF(上場投資信託)からは過去1カ月間で約46億ドル(約7,200億円)もの資金が流出しており、市場からリスクマネーが急速に引き揚げられている実態が明らかになっています。
投資家の関心は日米の金融政策の行方にも向けられており、年末にかけて円キャリートレードの動向が暗号資産市場に影響を与える可能性があります。
※価格は執筆時点でのレート換算(1ドル=155.67 円)
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Source:産経新聞
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