米下院、仮想通貨関連の主要3法案を審議・採決へ
米下院金融サービス委員会のフレンチ・ヒル委員長(共和党)は2025年7月3日、7月14日の週を「仮想通貨週間」と定め、主要な仮想通貨関連法案3本を下院本会議で審議・採決する方針を明らかにしました。
同委員会の発表によると、審議対象となるのは、デジタル資産市場透明性法案(CLARITY法案)、中央銀行デジタル通貨反監視国家法案(Anti-CBDC Surveillance State Act)、ステーブルコイン規制法案(GENIUS法案)の3本です。
ヒル委員長は声明で、これらの法案によりデジタル資産の包括的な規制枠組みを確立するとともに、消費者や投資家の保護を強化し、米ドル連動型ステーブルコインに関する明確なルールを整備する意向を示しました。
議会指導部が「仮想通貨週間」と名付けたこの週について、下院共和党指導部のマイク・ジョンソン下院議長も「画期的な3法案の迅速な審議が行われることを期待している」と述べています。
下院共和党は、超党派の合意形成を図りながら、7月下旬に始まる議会の夏季休会前までに法案を可決させる方針を示しています。
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CLARITY法案:仮想通貨の市場構造を明確化
CLARITY法案(デジタル資産市場透明性法案)は、仮想通貨(暗号資産)市場の構造を明確にすることを目的とした包括的な法案です。
2025年5月には、ヒル下院金融サービス委員長とトンプソン下院農業委員長の主導により、両委員会の超党派議員によって提出されました。
この法案は、2024年の第118議会で下院を超党派で通過した「21世紀のための金融イノベーション・テクノロジー法案(FIT21)」を基盤としており、SEC(証券取引委員会)とCFTC(商品先物取引委員会)の監督権限を明確に区分することを主な目的としています。
仮想通貨の法的位置づけを明文化へ
具体的には、仮想通貨が証券か商品に該当するかの判断基準を法的に明確化し、商品的性質が強い資産については証券ではなく「デジタル商品」として、CFTCの監督下に置く体制を構築する内容となっています。
これにより、多くの仮想通貨がSEC規制下における「未登録証券」と判断されるリスクが軽減され、米国における開発者やブロックチェーン関連企業の事業展開に対する法的な明確性が確保されると期待されています。
取引所への規制強化と国内イノベーションの保護
加えて、CLARITY法案には、仮想通貨取引所に対してCFTCへの登録を義務付け、利用者資産の分別管理や情報開示、記録の保存に関する規則を設ける内容も含まれています。
このような規制整備を通じて、規制の不透明さが原因で生じる技術革新の海外流出を防ぎ、米国内でのWeb3産業の振興を促進することが目的とされています。
CLARITY法案は、すでに下院金融サービス委員会および農業委員会で2025年6月10日に可決されており、本会議を通過すれば上院に送付される見通しです。
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CBDC反監視国家法案:中央銀行によるCBDC発行を禁止へ
CBDC反監視国家法案(Anti-CBDC Surveillance State Act)は、米連邦準備制度理事会(FRB)などが中央銀行デジタル通貨(CBDC)を発行することを禁止する内容を盛り込んだ法案です。
法案の主要提案者であるトム・エマー下院議員(共和党)は、2022年に初めて同様の法案を提出し、2024年5月には下院本会議で可決に至りました。ただし、当時は共和党の賛成多数に対し、民主党の多くが反対し、最終的な成立には至りませんでした。
こうした経緯を受けて、エマー議員は2025年3月に法案を再提出し、翌月の4月には下院金融サービス委員会で可決されました。
法案では、FRBがいかなる形であってもCBDCを試験・開発・発行することを禁止するとともに、中央銀行が個人向けにデジタル通貨口座や金融サービスを直接提供することも禁じる条項が定められています。
CBDCに潜む「金融監視社会」リスク
エマー議員は「選挙で選ばれていない連邦官僚による米国民の金融プライバシーの侵害を阻止するため」として、法案の目的を説明しました。背景には、CBDCが政府による強力な監視ツールとして機能する可能性への懸念があります。
CBDCの導入によって政府が国民の取引履歴を詳細に追跡し、資産凍結や支出制限といった介入が容易になるリスクも指摘されています。本法案は、こうした「金融監視社会化」の進行に歯止めをかけることを目的としています。
政府発行CBDCではなくステーブルコイン活用へ
なお、同内容の上院版法案はテッド・クルーズ議員(共和党)らによって上院にも提出されており、上下両院で並行して法案成立に向けた動きが進められています。
エマー議員は、プライバシーを確保したドル連動型ステーブルコインなど、民間によるソリューションの活用を優先すべきとの考えを示しています。
その結果として、本法案の成立により民間発行のデジタル通貨(ステーブルコイン)に対する需要が高まる可能性も指摘されています。
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GENIUS法案:規制とイノベーションの両立
GENIUS法案は、米ドルに連動したステーブルコインに対し、連邦レベルで包括的な規制枠組みを導入することを目的としています。
本法案は、2025年6月17日に上院本会議で賛成68・反対30の超党派多数により可決され、米国で初となる本格的なステーブルコイン規制法として位置づけられています。
提出者はビル・ハガティ上院議員(共和党)やティム・スコット上院銀行委員長(共和党)、シンシア・ルミス議員(共和党)といった共和党議員らで、消費者保護と金融安定の両立を図る内容となっています。
法定通貨準備金とステーブルコイン発行ライセンスの義務化
具体的には、ステーブルコイン発行体に対して1対1の法定通貨準備金の保有を義務付けるとともに、準備資産の月次開示や外部監査の実施も求められます。また、発行体は連邦政府または州当局のいずれかからライセンスを取得する必要があります。
加えて、アルゴリズム型ステーブルコインの新規発行を禁止するほか、一定の規制要件を満たすステーブルコインについては、有価証券(証券法上の証券)と見なさないことを明文化しています。
SECの監視対象外とする法的整備
これにより、ステーブルコインは米SECの規制対象外とされ、証券法による規制の不透明性の解消と市場の透明性向上が図られます。
この法案は、銀行・ノンバンクを問わずすべてのステーブルコイン発行体を対象としています。あわせて、AML(マネーロンダリング対策)やテロ資金対策といったコンプライアンスの遵守義務に加え、トークン保有者が法定通貨への交換を請求できる「償還権」の明記も盛り込まれています。
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米議会で仮想通貨課税・規制の新法案が相次ぎ提出
これら3つの主要法案に加え、米議会では他にも仮想通貨に関連する複数の法案が提出され、審議が進められています。
少額取引の非課税化を盛り込む税制案
直近では、シンシア・ルミス上院議員(共和党)が2025年7月3日付で、デジタル資産を対象とした新たな税制改革法案を発表しました。
この法案は、仮想通貨取引に伴う税負担の軽減と制度の現代化を目指すものであり、300ドル(約43,000円)以下の少額取引に対して非課税とする「デ・ミニミス規定」の導入を柱としています。
具体的には、1回の取引につき300ドル以下、年間累計で最大5,000ドル(約72万円)までの仮想通貨による利益を課税対象から除外する構成です。また、インフレ率に応じて非課税枠を毎年調整する仕組みも規定されています。
さらに、マイニング報酬やステーキング報酬に関しては、取得時ではなく売却時に課税する方式への見直しが提案されています。
この見直しにより、従来問題となっていた未実現利益に対する二重課税が回避され、仮想通貨の保有段階における過度な納税負担を軽減することが可能になります。
ルミス議員は声明で「デジタル経済に即した税制の整備は不可欠であり、旧来の制度が米国のイノベーションを阻害することがあってはならない」と述べ、税制度の近代化の必要性を訴えました。
公職者の仮想通貨取引を制限へ
一方、民主党のアダム・シフ下院議員は2025年6月下旬、公職者による仮想通貨取引に伴う利益相反の防止を目的とした「COIN法案」を提出しています。
本法案は、議員や政府高官およびその家族が行う仮想通貨取引による利益相反を防止するため、一定の制限を課すとともに、仮想通貨の保有状況を財務開示報告に含めることを義務付ける内容となっています。9名の民主党議員が共同提案者に名を連ねました。
また、共和党のビル・キャシディ上院議員も、仮想通貨の振興を国家目標と位置づける決議案を提出し、デジタル資産に適した新たな税制度の必要性を提起しました。
仮想通貨300ドル以下の取引を非課税に
米議会で仮想通貨法案が本格化
このように、米議会では市場構造の明確化、ステーブルコイン、CBDCの規制に加え、税制や公職者の倫理規定といった幅広い領域で仮想通貨に関する立法作業が進展しています。2025年は、米国の仮想通貨政策における重要な転換点となる可能性が高まっています。
米上院のティム・スコット銀行委員長は、2025年9月末までに上院として市場構造に関する法案を取りまとめる方針を示しており、上下両院での成立に向けた議論が加速しています。
業界団体からは「米国が明確な規制枠組みを構築すれば、Web3分野における国際競争力の強化につながる」との期待も示されており、今後数ヶ月にわたる立法の動向が国内外で注目されています。
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Source:米下院金融サービス委員会プレスリリース
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