ビットコイン長期保有の傾向が鮮明に
ブロックチェーン分析企業Glassnode(グラスノード)は2025年7月1日、ビットコイン(BTC)投資家全体の未実現利益(含み益)の総額が約1兆2,000億ドル(約172兆円)に達したことを明らかにしました。
同社が公開した最新のオンチェーンデータ分析レポートでは、現在の価格水準は、投資家の大規模な利益確定を促すには不十分であると分析されています。
こうした状況により、多くの保有者が売却に踏み切らず、ビットコインを保持し続けるダイヤモンドハンド(長期保有)の傾向が強まっていると指摘されています。
長期保有(HODL)志向の強まりにより、直近のイラン・イスラエル間の緊張などの地政学的リスクによる一時的な急落局面でも、市場は短期保有者の平均取得コストである98,300ドル(約1,412万円)付近で価格がサポートされ、迅速に回復しました。
グラスノードは、市場が強気・弱気を分ける重要な価格水準を維持したことで投資家心理が安定し、長期的な強気姿勢が一層強まったとの見方を示しています。
ビットコイン「ドルに代わる基軸通貨に」
ビットコインの未実現利益拡大とその背景
未実現利益は1兆ドル超も、売却は控えめな水準に
グラスノードは、ビットコインの未実現利益が時価総額と実現時価総額の差から算出され、現在は約1兆2,000億ドルに達していると報告しています。
レポートによると、MVRV(※1)比率に基づく平均含み益は約125%と比較的抑制された水準となっており、2024年3月のピーク時(MVRV +180%)を下回っています。
MVRV比率はピーク時よりも低い水準(画像:Glassnodeレポート)
これは新規投資家による資金流入で実現時価総額が拡大したため、全体の時価総額に占める含み益の割合が相対的に低下したことを示唆するものです。
現在の利益確定規模は限定的と分析されており、オンチェーン上での実現利益は日次平均で約8億7,200万ドル(約1,250億円)にとどまっています。
この数値は過去の利益確定額と比べて大幅に少ない水準です。ビットコイン価格が初めて7万3,000ドルに到達した2024年3月や、過去最高値(約10万7,000ドル)を更新した同年12月には、一日あたり28億~32億ドル(約4,000億~4,600億円)の利益確定が記録されていました。
※1:MVRV(Market Value to Realized Value ratio)は、ビットコインなどの仮想通貨が過大評価されているか、過小評価されているかを判断するためのオンチェーン指標
「0.1BTCの保有」がアメリカンドリームに
HODL戦略が示す市場の安定感
売り圧力の低さは長期保有者(LTH)の動向にも表れており、155日以上保有されたビットコインの供給量は増加を続け、約1,470万BTCと過去最高水準に達しました。
長期保有者(LTH)層が保有する総供給量(画像:Glassnodeレポート)
2025年1月に10万ドルを超える水準で購入されたビットコインの多くもいまだ売却されておらず、市場への放出は限定的な状況が続いています。
投資家は短期・長期を問わず、一時的な売却後は再び売却頻度を下げています。これに伴いSell-Side Risk(市場における売却圧力)比率も低下傾向を示しています。
また、ビットコインの保有期間と移動頻度を分析するグラスノードの「Liveliness(ライブリネス)」指標も下降トレンドを継続しており、過去の強気相場終盤に見られた急激な上昇は今回は観測されていません。
このライブリネスの低下は、市場全体でHODLが売却を上回っている状態を意味しており、複数の指標が示すように現在のビットコイン市場では長期保有(ダイヤモンドハンド)戦略が優勢であることを裏付けています。
ただし、これほど含み益が膨らんでいる現状では、投資マインドの変化次第で潜在的な売り圧力となる可能性もあります。
グラスノードは「現状の価格レンジでは投資家の追加的な売却意欲を引き出すには不十分であり、さらなる価格上昇が必要になる可能性が高い」と指摘しています。
セイラー氏のHODL姿勢が信頼感支え
このような強気の長期志向を裏付けるように、業界の著名人からもビットコインの将来性に自信を示す発言が続いています。
米上場企業ストラテジー(旧マイクロストラテジー)社のマイケル・セイラー会長は、2025年6月19日に自身のX(旧Twitter)で「₿e Free(自由になれ)」と投稿し、引き続き強気の姿勢でビットコイン支持を表明しました。
セイラー氏は数年前からビットコインの長期保有を一貫して推奨しており、自社でも大規模なBTC買い増しを継続的に進めています。
このような著名投資家による前向きな発言は市場参加者の信頼感を支える要因となっています。同氏の投稿後、一時的にビットコインの取引高が増加し、市場全体の強気ムードが高まりました。
FRBのドル供給がBTCを押上げか
企業財務へのビットコイン導入が拡大
ビットコインの長期保有傾向が強まる中、企業や機関投資家によるビットコイン採用も加速しています。
ストラテジー社が半年で13万BTCを追加取得
特に著名な例として、NASDAQ上場のストラテジー社は、2025年上半期だけで135,600 BTCを追加取得しており、これは企業全体の取得量の55%を占めています。
同社は世界最大のビットコイン保有企業として知られていますが、その占有率は前年同期の約72%から低下しており、他企業の新規参入が進んでいることが示唆されています。
米Figma(フィグマ)社がビットコイン現物ETFへ投資
米デザインソフト企業Figma(フィグマ)は、7月1日に提出したIPO目論見書において、ビットコイン現物ETFへの投資を明記し、約6,950万ドル(約100億円)相当を保有していることを明らかにしました。
Figmaの取締役会は2024年3月に5,500万ドルの投資枠でETFを取得し、その評価額は約27%上昇して6,953万ドルとなっています。
さらに同社は2024年5月に3,000万ドル(約43億円)相当のUSDコイン(USDC)を追加購入し、将来的にビットコインへの再投資に充てる計画も示しています。
このUSDC保有分も含めると、Figma社は約1,000億円規模の資産のうち約4%をビットコイン関連資産として運用しています。企業財務における長期リザーブ資産としての位置づけが進んでいる状況です。
機関投資家によるビットコインETFへの投資加速
また、グラスノードは「既存保有者が売りを控える一方で、機関投資家による規制型ビットコイン投資商品の需要は堅調に推移している」と報告し、米国の現物ETFへの7日平均純資金流入額は約2億9,800万ドル(約428億円)に達しているとしています。
これはビットコイン市場に新たな大口資金が流入していることを示しており、需給の観点から価格を支える要因の一つとされています。
長期リザーブ資産としてのビットコインが定着
米資産運用大手ブラックロック(BlackRock)は2024年末のレポートで、投資家に対しポートフォリオの最大2%をビットコインに割り当てることを検討するよう提言しました。
こうした動きを受けて、従来の金融業界でもビットコインを分散投資の一環として取り入れる流れが広がっています。
また、Bitwise(ビットワイズ)とUTXOが2025年5月に共同発表した報告書では、2026年末までにビットコインの流通供給量の20%以上を企業および政府が保有する可能性があると指摘しました。この場合、約427万BTC(約20.3%)が企業や公的セクターのバランスシートに組み込まれる見込みです。
グラスノードは、民間企業から政府機関に至るまでビットコインの受容が拡大する流れについて、流通市場における供給減少(フロート縮小)と価格の安定・上昇圧力につながる可能性があると分析しています。
2025年に入りビットコイン価格は大幅に上昇しています。市場では、長期保有者による売り控えと新規資金の流入という2つのトレンドが並行して進行しており、これらがビットコインの普及拡大と価格支持要因となっています。
今後も各国で進む規制整備やETF商品の拡充により、ビットコイン需要のさらなる高まりが期待されています。
※価格は執筆時点でのレート換算(1ドル=143.55 円)
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Source:Glassnodeレポート
サムネイル:Shutterstockのライセンス許諾により使用






























