「熊本ブロックチェーンカンファレンス2018」が8月3日(金)に開催されました。3週間ほど前に急遽開催することが告知されたこの会議は、わずかな募集機関で200名を上回る参加者を集める結果となり、「Blockchain技術」に関する関心が非常に高いことを実感させる盛況ぶりを見せました。
このカンファレンスで講演を行った「ブロックチェーンと地方創生」をテーマに具体的な取り組みを行っている4つの企業・団体を紹介します。
こちらから読む:ブロックチェーンとは?仕組みを基本からわかりやすく解説
「熊本」でブロックチェーン
「熊本ブロックチェーンカンファレンス2018」は、浜田康成氏と熊本日日新聞社が中心となって企画を行い8月3日18:00から熊本県熊本市にて開催されました。
仮想通貨やブロックチェーンのニュースでも度々名前の上がる九州の中心に位置する都市で開催されたこのカンファレンスでは、インフォテリア株式会社CEOである平野洋一郎氏を講師として迎え、「ブロックチェーンが築く地方創生の可能性」と題して、『ブロックチェーンがどのように地方に貢献できるのか』や『その可能性と将来性』などについて、複数のブロックチェーン企業の代表者たちが多くのことを語りました。
実際の会場では、熊本県山都町水増(みずまさり)集落で無農薬・無肥料・自然栽培作のお米で作られたおにぎりやブルーベリー、ホウズキ、お水が振る舞われ地元色の強いカンファレンスとなっていました。
熊本県の三角出身である平野氏は、登壇後「熊本弁ネイティブの会」の会長でもあることを明かし、「講演は熊本弁で行わせてほしい」と語り会場を沸かせました。
ブロックチェーンが支える仮想通貨
講演はまず初めに、ビットコインや仮想通貨の置かれている概況や世間一般的な認知、仮想通貨界隈で起きる大きな事件を交えながらの質問形式で行われました。
「ビットコインやブロックチェーン技術について知っているか?」という質問に対しては、会場のおよそ半分の人々が「知っている」と回答し、ほとんどの人が知らないと予想していた平野氏は驚いた様子を見せていました。多くの人々は、それらの技術に対してあまり詳しくは理解できていないものの、技術自体には大きな期待を抱いていることが明らかになりました。
現在ビットコインの時価総額は14兆円(過去最大は34兆円)にものぼるため、技術的な面を詳しく理解していない人が多く存在している一方で、その価値を認めている人々も多いことは確かです。これらの期待感を支えている根本的な技術はやはり「ブロックチェーン技術」であることはほぼ間違いなく、仮想通貨に関連した盗難や資金洗浄などのようなネガティブなニュースは、ブロックチェーンの将来に悪影響を与えるものでは無いと考えられます。
講演の中で平野氏は、「ビットコイン自体に問題があるのではなくそれらを取り扱う側の不備や欠陥の問題である」ということを語り、「ビットコインの価値の本質はどこにあるのか」という問いを投げかけるとともに、『具体的にブロックチェーンの何が優れているのか』や、ブロックチェーン技術の持つ『特長』と『特徴』について紹介しました。
ブロックチェーンの「特長」
「特長」とは、他より優れている点を指します。
- データ改ざん不可(書き換えられない)
- 単一障害点の排除(システムが落ちない)
- コストダウン(安く上がる)
ブロックチェーンの「特徴」
「特徴」とは、他には無いものを指します。
- データのかたまりを連鎖させた構造
- 非中央集権型意思決定(参加者の合意による)
平野氏自身がソフトウェア開発者としての経験も持っていたため、解説中のキーワードや例えは具体的でありながら簡潔でもあり、テンポよく講演は進められました。同氏は、ブロックチェーンの解説、可能性、将来性を以下のようにまとめています。
- ブロックチェーンは複数のタイプがある
- ブロックチェーンはどんどん進化中、さらに進化する
- ブロックチェーンはFinTech意外にも活用できる(改ざんが許されないデータ、非中央集権型システム)
- ブロックチェーンは組織と社会の有り様を変えていく(新たな「自律・分散・協調」社会を支えるインフラへ)
- ブロックチェーンは地方創生のツールになりうる(しかし最後は人、「べき」ではなく「たい」で進めること)
ブロックチェーンが地方創生の力になり得る理由を解説し、講演は第2部の事例紹介へと移ります。
ブロックチェーン×地方創生:福岡発ベンチャーがブロックチェーンに取り組む意義
株式会社グッドラックスリー(Good Luck 3)の取締役である畑村匡章氏は、今回の講演の中で同社が開発しているスマートフォン・ウェブアプリ
・くりぷ豚
・Crypto Idols
を題材にして、ブロックチェーンがもつ可能性や将来性について語りました。
畑村氏は、世界を変えるとも言われているブロックチェーン技術が誕生してことによって『将来的には「企業」という形はなくなり、小さな組織が拡大する世界をもたらされる』と予想しています。
スマホ向けゲームアプリ「くりぷ豚」
ブロックチェーン技術を用いたゲームの開発に注力している同社は、Ethereumブロックチェーン上で豚を育成するスマホ向けゲームアプリである「くりぷ豚」を開発しています。
このゲームでは、仮想通貨イーサリアム(ETH)を使って可愛らしい豚のキャラクターを購入することができるようになっており、ユーザーはそれらのキャラクターを育成し、お見合いを重ねていくことによって新しい自分だけの「くりぷ豚」を育てることができます。
理論上では3京種類以上の「くりぷ豚」が誕生する仕組みとなっており、育成した「くりぷ豚」は他ユーザーと売買することもできるように設計されています。
ブロックチェーンとゲーム開発
畑村氏は「ゲームはプログラム内でほとんど完結する完全な仮想世界であるため、電子データの世界で動作するブロックチェーンとの相性が良い」と語っています。またイーサリアムはビットコインとは違う性質を持っているため、プログラミングとの相性が良いという特長があるとも述べています。
ブロックチェーン技術を使用すれば改ざんできないデータを扱うことができるため、ゲーム内で数個しか存在しない貴重なアイテムを生み出すことができます。畑村氏は、それらのアイテムを現実世界でのステータスとして反映させることによって、新たな価値観が生まれる可能性があると説明しています。
グッドラックスリーは今後の計画として、ゲーム内で作成されたデータを別のゲームに転送できるような機能や、AR(拡張現実)として投影できる機能を追加することなども検討しているため、将来的にはゲームの枠を超えたさらなるサービスがリリースされることも期待できます。
ブロックチェーン×地方創生:飛騨信組の電子地域通貨『さるぼぼコイン』による地域活性化の取り組み
株式会社フィノバレーのCEOである川田修平氏は、講演の中でブロックチェーンを土台としたアプリケーションやサービス事例について紹介しました。
フィノバレーは位置情報を活用することによって、各ユーザーに最適な情報をスマートフォン上に通知するような技術を様々な企業に提供しています。これまでは決済の分野を取り扱っていませんでしたが、ここ数年でいくつかのサービスが形になっているようです。
バス乗車アプリ「BUS PAY」
徳島県と埼玉県のバス事業者で採用されている決済サービス「BUS PAY(バスペイ)」では、事業者が負担するコストを大幅に削減することができるようになったと言います。
従来のバス業界で新たな決済システムを導入するためには、数十台〜百台にも及ぶすべてのバスに読み取り機を設置する必要があったため、多くの問題が生じていました。これらの機器を導入するためには億単位の資金を投資する必要があったため、実際に導入に踏み切ることは非常に困難なことでした。
しかし「BUS PAY」を活用すれば、ユーザーがすでに持っているスマートフォン見せるだけで決済を処理することができるため、従来必要とされていた莫大な初期投資を行う必要もなく、非常に安いコストで誰でも簡単に利用できる決済システムを導入することができます。
「BUS PAY」は、人口密度の低い地域では導入が困難だった新しい決済サービスを導入する際などにも、非常に重要なサポートを提供することができます。
このような革新的なプロジェクトを進めている同社は、地域通貨へのサービスも展開しています。
地域通貨「さるぼぼコイン」
「さるぼぼコイン」は、岐阜県飛騨地域で採用されている地域限定のお金です。
川田氏は、さるぼぼコインを作った最大の目的は”地域振興”であると語っています。
飛騨地域は人口の減少、少子高齢化、経済停滞、巨大資本企業の参入等により地域が低迷していく現状を打破するために新たな施策が必要でした。
元々観光客が一定数存在していた飛騨地域ですが、日本はキャッシュレス社会への対応が遅れているため、それらの技術も浸透しておらず、外貨を稼ぐという点では機会損失が発生していました。
川田氏は、キャッシュレスに対応していない場合には約20%の損失が出るという試算があることから考えると、一人あたり約4万円の増収が見込める計算になると説明しています。(中国からの観光客が使用するお金は一人あたり約15万円〜20万円)またクレジットカードが使用できる店舗は全体の2割程にとどまっているとのことで、その理由としては機械の導入や決済手数料の負担が挙げられています。
これらの問題を解決するために2017年5月に開始されたのが、飛騨信用組合と共同で「地域通貨」を本格導入するという取り組みでした。
さるぼぼコインのプロジェクトは、最初のステップとして『地元の方にしっかりと使ってもらう』ことに焦点を当てた活動を行なっており、現在の対応店舗は全体の2割にあたる800店舗まで伸びており、約6000千人のユーザが利用しているとのことです。
ブロックチェーン×地方創生:「熊本 ヴォルターズ」トークンエコノミーによる地域プロスポーツの新しい可能性
熊本を拠点として活動しているプロバスケットボールチームである「熊本 ヴォルターズ」の代表取締役CEO内村安里氏は、トークンエコノミーが地域のプロスポーツ業界にもたらす新たな可能性について語りました。
同氏はブロックチェーン技術に関する説明の前に、地方における『プロスポーツ業界の現状』について説明しました。
プロスポーツ業界の現状
内村氏は、2016年4月14日に発生した熊本地震によって「熊本 ヴォルターズ」がそれまで利用していた体育館が使えなくなってしまっただけでなく、残していた試合にも参加することができず、収入源がなくなり経営状態が厳しくなっていたことを明かしました。
しかしヴォルターズのメンバーは、そのような厳しい状況下に置かれながらも「試合はできないものの、なにかできることがあるはずだ」と考え、選手も一丸となって様々な方法を模索したとのことです。
親会社に支えられているスポーツクラブは、親会社の補填で成り立っているため実情は赤字経営が大多数だと言います。
内村氏は『親会社を持たない地方の市民クラブに未来はあるのか?』ということを考えた際に、ブロックチェーンの技術が打開策になる可能性があることに気付いたと語っています。
ヴォルタースでは、熊本ヴォルターズコインを発行し、
・クラウドファンディングの仕組み
・パートナー企業・団体を起点とした地域活性化支援システム
という2つの仕組みを取り入れています。
クラウドファウンディングの育成支援システム
クラウドファウンディングの仕組みを活用した『育成支援システム』は、支援してくれたサポーターに対して選手のカードやサイン、動画等のデジタルデータをブロックチェーン上に記録しチームに貢献してくれたお返しとしてそれらのデータを付与する形式を採用しています。
これらのデータを『唯一無二のデジタル資産』として価値をもたせることによって、チームを支援したサポーターに対しても理想的な形で特別なリターンをもたらすことができるため、内村氏はこれらのサービスがその他の様々なスポーツクラブや選手が利用できるプラットフォームになり、より多くの人々に貢献できることを望んでいると語っています。
パートナー企業・団体を起点とした地域活性化支援システム
パートナー企業や団体に関する活用方法としては、来店した際やイベントに参加した際に『KSP(Kumamoto Supporter Point)』を付与することを計画しています。
内村氏は、KSPと既存のポイントシステムとの違いや価値について次のようなことを挙げています。
- イーサリアムベースのアプリを持ちることでKSPの発行・利用が一連の操作で完了できる
- もしヴォルターズがいなくなってもKSPの経済圏は可動し続ける(運用者の信用リスクに依存しない経済圏の構築)
- トークンを使うことでKSPのウォレット感の移動を容易にできる
- 参加者全員でマーケティングデータを共有できる・活用できる
またこれらのプログラムでの支援に参加した人々は、次期会長を決定する際の選挙に参加することができるようにもなると、説明されています。この選挙に関する情報に関しても、ブロックチェーン技術を活用することによって、改ざんを防止し、より適切に理想的な形でチームにふさわしい会長を選ぶことができます。
ブロックチェーン×地方創生:ブロッチェーン技術が築く地方創生の可能性-ブロックチェーンは地方の仕事と生活を変えるのか-
2018年に入り、仮想通貨のマイニング(採掘)事業に参加したことで大きなニュースとして取り上げられた、熊本電力の代表取締役CEOである竹元一真氏は、「熊本におけるマイニングファーム構想と地域創生」について語り、マイニング事業に参加することを決定した理由や、今後のビジョンについて語りました。
マイニング事業に参加した理由
『なぜマイニング事業に参入したのか』について竹元氏は、ブロックチェーン技術の根幹を支えるマイニングには世界中の業種業態が参入しているものの、仮想通貨相場が下落し、マイニングコストを賄うことが困難になり、電力供給の面においても大きな問題があることを語りました。
このような状況を見た竹元氏は、「電力会社がマイニングファームを運営する事業者が必要なのではないか」と考えたと言います。最終的に「マイニングには電力会社の存在が不可欠である」と判断した同氏は、これを熊本でやりたいと考えたとのことです。
マイニング事業のメリット・デメリット
マイニング事業にメリットについて竹元氏は、
・マイニング事業は投機に比べ市場の相場に左右されないので安定する
・マイニング自体はなくならない
などを挙げています。
逆にデメリットとしては、
・マイニングには時間とコストがかかる
とも説明しています。
マイニングには個人でも参加することができますが、
・マイニングマシンを設置する場所がない
・電気代が高い
・マシンが入手できない
・ノウハウがない
などのような問題を抱えている人も多いことから、マイニングにより簡単かつ安全で低コストに参加できるマイニング事業が必要であると考えたとのことです。
今後の展望
熊本電力は将来的に、
・マイニングファームの拡大
・ノウハウの蓄積
・数万大規模の管理運営の実現
などを行うことによって、マイニング事業を通じて熊本をブロックチェーン技術の中心にしたいと考えているとのことです。
さらに竹元氏は、「将来的には電気代0円になるべきだと考えている」とも語っており、「その布石として電気とブロックチェーンについて考えていく必要がある」と述べています。
3年以内に10万台のマイニングマシンを稼働させることを目指していると語る竹元氏は、マイニングマシンを設置する場所が必要であることに対してはどのように対処するのか?について、廃校になり再利用の目処も立っておらず、放置される可能性のある小中学校をマイニングファームとして再構築していくというプランを提案しています。
廃校になった学校で仮想通貨のマイニングを行う一方で、ブロックチェーン関連会社のサテライトオフィスとして誘致することによって、利用されることもなく無駄になっていた学校を、より効率的に活用していくことができます。竹中氏は、これらを活用して熊本をブロックチェーンの中心地にしたいと考えていると説明しています。
「今後供給過多になると、電力買い取りの抑制が始まる」と語る同氏は、その期間は電力が無駄に廃棄されるのでそれをマイニングファームに利用できると考えているとのことで、現在はスイスの会社とも連携を進めており、熊本電力は農業も行なっているため、これらのノウハウを生かして『農地の土壌、肥料等をセンシングしトレースしブロックチェーンで記録する』といった活動にも取り組んでいきたいとも語っています。
今回のブロックチェーンカンファレンスで講演を行った各企業に代表者たちは、革新的な次世代の技術に大きな可能性を感じており、実際にその技術を地域のために役立てるためのプロジェクトに非常に強い熱意を持って取り組んでいることがはっきりと現れていました。
熊本地震が発生してから約2年が経過した今、熊本の街では復興が進められるのと同時に、新しい最先端技術を取り入れた分散型社会の構築に向けて着実に前進していることが感じられます。
地震で崩壊した建物の再構築が進み、近代的な施設の建築も進められている熊本県は、数年後には日本を代表する『ブロックチェーン都市』として大きな成長を遂げていることでしょう。今後もさらに成長が加速すると考えられる熊本発のブロックチェーンプロジェクトには、大きな注目と期待が集まります。