日本銀行は2020年7月2日に公開した「中銀デジタル通貨が現金同等の機能を持つための技術的課題」というレポートの中で、日本銀行独自の中央銀行デジタル通貨(CBDC)について『実証実験等を通して、技術面からみた実現可能性(フィージビリティ)を確認していくとともに、海外中銀や内外の関係諸機関と連携をとりながら、CBDCに関して検討を進めていく方針である』と説明しました。
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「中央銀行デジタル通貨(CBDC)」に関するレポート公開
日本銀行が2020年7月2日に公開した「中銀デジタル通貨が現金同等の機能を持つための技術的課題」というレポートでは、近年世界各国で研究・開発が急速に進められている”中央銀行デジタル通貨(CBDC)“に関する概要説明や現在の状況、求められる機能性、解決すべき課題、議論すべき点などといった様々な事柄が記載されています。
CBDC開発で検討すべき重要なテーマ
レポートの中では、CBDCが現金と同等の機能を持つためには「誰もがいつでも何処でも、安全確実に利用できる決済手段」であることが求められるため、CBDCを検討する際にはCBDCが「ユニバーサル・アクセス(Universal access)」と「強靭性(Resilience)」という2つの特性を備えることが技術的に可能かどうかを検討することが重要なテーマになると説明されています。
「ユニバーサル・アクセス」に関しては”様々なユーザーが利用できる端末を開発することが重要になる”とされており、「強靭性」に関しては”通信・電源途絶への耐性を備えたオフライン決済機能を備えることが望ましい”とされています。
CBDCの利用でスマートフォンを利用した場合に関しては、すでに開発されている様々な技術をオフライン決済に転用することができると考えられるものの、実用化に関しては「機能の安定性・処理性能の確保・コスト面」などで課題が残るとされており、「スマートフォンを保有していない人々向けの端末開発」も検討課題になるだろうと説明されています。
「CBDCに求められる機能性」について
中央銀行デジタル通貨(CBDC)に求められる機能性に関しては「CBDCを利用できる端末が限定された場合」や「操作性や携帯性に課題が残されていた場合」などには多くのユーザーに受け入れられない可能性もあるため、『CBDCの利用対象者を制限することがないよう、 設計面で工夫が必要だと考えられる』と説明されています。
CBDCを開発する際に「搭載すべきである・搭載することが望ましいと考えられる機能」としては以下のようなことが挙げられています。
- CBDCの利用対象者が制限されないこと
- 子供から高齢層まで幅広い世代が利用できること
- 訪日外国人観光客も利用できること
- 個人から法人への送金(店舗決済など)で利用できること
- 個人間も含めた双方向の送金(P2P取引)で利用できること
- ユーザーのプライバシーを確保すること
- AML/CFTへの対応といったコンプライアンス上の課題を解決すること
分散型台帳技術(DLT)の活用について
中央銀行デジタル通貨(CBDC)では「ブロックチェーン技術」や「分散型台帳技術(DLT)」の活用が期待されていますが、日本銀行は『”CBDCにこれらの技術を活用するかどうか”に関しては検討が必要である』との見解を示しています。
レポートの中では、
・台帳の管理方法として「中央集権型・分散管理型」
・台帳の記録方法として「口座型・トークン型」
・台帳情報の管理場所として「リモート型・ローカル型」
などの選択肢があることが説明されており、『それぞれの方法にはメリット・デメリットがあるため、利用環境・目的・今後の技術革新の可能性などを踏まえて検討することが重要である』との考えが説明されています。
具体的には『”先進国のリテール決済”のように膨大な取引が想定されるケースでは、大量・高速処理に優れていて利用実績も豊富な「中央集権型」の利用が馴染むとの見方が現時点では多いが、取引が一定の水準に止まるケースで、強靭性・機能拡張・将来性を重視する場合は「分散管理型」を検討する余地がある』と説明されています。
しかしながら「オフライン決済」に関しては、中央管理型・分散管理型のどちらであっても、台帳が一定の安全性と処理性能を備えていれば、技術的には実現可能であるとされています。なお、レポートの中では「オフライン決済における二重使用リスクへの対応」などについても詳しく説明が行われています。
オフラインP2P決済の実装方法について
今回のレポートでは「オフラインP2P決済の実装方法」として、
1.スマートフォンを用いる手法
2.カードやウェアラブル端末などの新たな端末を用いた手法
という2つの手法が例として挙げられています。
これら2つの手法はまだ実用化された事例ではないものの『現時点で利用可能な技術や新規開発が必要な機能を組み合わせた実装案』として紹介されています。
「スマートフォン」を用いた場合のメリット
「スマートフォンを用いた場合のメリット」としては『既に様々な決済サービスに利用されており、オフライン決済への転用が可能なハードウェア・ソフトウェアが多数搭載されている他、オンライン接続機会も確保しやすいため、台帳との機動的な接続やソフトウェアの遠隔更新が可能な点などがメリットになる』とされています。
しかしながら「日本のスマートフォンの普及率が2018年時点で65%ほどであること、端末メーカーとの搭載交渉などが必要になること、スマートフォンが一般的に高額であること」などの課題があることも説明されています。
「新たな端末」を用いた場合のメリット
「カードやウェアラブル端末など”現時点では存在しない新たな端末”を用いた場合のメリット」としては『あらかじめCBDCが保蔵されたカード(Suica・PASMOなどのイメージ)を安価に提供できれば、子供・高齢者・海外からの旅行者などといった幅広い層の人々が利用できる可能性があり、腕時計型などのウェアラブル機器にも搭載できれば多様なユーザーニーズへの対応も可能になる』とされています。
しかしながら、このような「現時点では存在しない新しい端末」を開発する場合には、必要な機能などの開発などで一定の期間とコストがかかることになり、それに必要な「小型機器」や「十分な寿命・充電機能を備えた小型電池」などの開発が重要になるとも補足されています。
今後も実証実験などを通じてCBDCを検討
日本銀行は今回のレポートのまとめとして『CBDCに関しては決済手段という視点だけでなく、その発行が金融システムや金融政策に与える影響なども含めて検討すべきテーマが多岐にわたる』と述べており、『社会の中銀マネーに対するニーズを的確に汲み取り、デジタル社会に相応しい中銀マネーのあるべき姿について、様々な視点から議論を深めていく必要がある』と説明しています。
日本銀行は「現時点でCBDCを発行する計画はない」との立場を維持しているものの、『日本銀行としては、実証実験等を通して技術面からみた実現可能性(フィージビリティ)を確認していくとともに、海外中銀や内外の関係諸機関と連携をとりながら、CBDCに関して検討を進めていく方針である』とまとめています。