インドの国立技術向上プログラム(National Programme on Technology Enhanced Learning/NPTEL)は2018年6月19日、米国技術大手であるIBMと協力して、ブロックチェーンの設計、使用に関する12週間の学生向けのオンラインコースを開始しました。
NPTELとは
NPTEL(National Programme on Technology Enhanced Learning)は、インドが誇る超エリート大学であるインド工科大学(IITs)とインド理科大学(IISc)の授業をインターネット上で『無料配信』している国家プロジェクトです。
インド国内の18ヵ所に点在するIITsの入試試験は合格率が非常に低く、その分学生の質が非常に高いのですが、IITs以外の工科系大学の教育環境が非常に悪いため、大学間での教育格差が問題となっています。
NPTELはこの格差を埋めるための取り組みを行なっています。
インド政府からの支援を受けているNPTELは、IITs以外の大学生に対しても”IITsの質の高い授業”をインターネットを通して無料で提供しています。
2003年7月から授業のネット配信がスタートし、現在のネット講座でもキャンパス内で撮影された実際の授業が数多くが配信されています。
提供されているコースは非常に多く、分野別の分類としては次の27種類が用意されています。
- 航空宇宙工学
- 農業
- 建築
- 大気科学
- 自動車エンジニアリング
- 基本コース(セム1と2)
- バイオテクノロジー
- 化学工学
- 化学と生化学
- 土木工学
- コンピュータ科学と工学
- 電気工学
- 電子通信工学
- 工学的設計
- 環境科学
- 一般
- 人文社会科学
- 管理
- 数学
- 機械工学
- 冶金および材料科学
- 鉱業工学
- 学際的
- ナノテクノロジー
- 海洋工学
- 物理
- 繊維工学
講座を受講する人の数は増え続けており、聴講者の大多数はインドの学生ですが、アメリカなどからのアクセスも増加しています。
インド初の教育プログラム
ブロックチェーンの技術は、2018年第1四半期の『UpWork’s Skills Index』でテクノロジー業界で最も需要の高いスキルと見なされています。
このコースは、分散型台帳技術(DLT)に関するインドで最初の教育プログラムであり、ブロックチェーンを積極的に取り入れようとしているインド政府の姿勢が現れています。
学界と産業界をつなぐベンチャーは、基本的な設計、システム構造、セキュリティなどを含むブロックチェーンのいくつかの側面をカバーし、その技術の新しいユースケースを模索することを目標としています。
生徒は2018年7月からコースに登録することができ、この技術に関連する実用的で概念的なスキルセットを開発することを目指しています。すべての授業はNPTELのウェブサイトで無料で利用できますが、証明書は料金とオンライン試験の対象となります。
ブロックチェーン技術の多様化
仮想通貨はブロックチェーンの最もよく知られているアプリケーションですが、このテクノロジーはビジネスプロセス管理、IoT、ロジスティクスなど、さまざまな分野に着実に進んでいます。
NPTELコーディネーターのAndrew Thangaraj氏は、IBMとのブロックチェーン・コースがこの”ジャンル”の第1弾であり、より多くの企業が同じように前進することを奨励すると考えています。
IBMでスマートコントラクトとブロックチェーンの担当技術責任者であるPraveen Jayachandran氏とこのコースを共同開発した、インド工科大学(IIT) KharagpurのSandip Chakraborty氏は、次のように述べています。
「ブロックチェーンの人気は、保険、金融、サプライチェーンロジスティクス、デジタルアイデンティティ、医療、公共部門などの多くの業界で、仮想通貨からビジネスアプリケーションに移行しています。」
また、Jayachandran氏は次のように付け加えました。
「ブロックチェーンのカリキュラムを作成するためのインドの有力な学識者とのIBMの協力は、技術を最大限に発揮できるようにするという当社のコミットメントを反映しながら、学生や開発者にとって適切なスキルに対する需要の増加に対応しています。
リップルは17大学に大規模な寄付
ブロックチェーン技術の教育には、仮想通貨リップル(XRP)を支えているRipple社も力を入れています。
リップル社は、ノースカロライナ大学、マサチューセッツ工科大学(MIT)、ペンシルバニア大学などを含む17の学校との提携を発表し、「University Blockchain Research Initiative」プログラムを通じて、ブロックチェーン、仮想通貨、デジタル決済の研究開発に5千万ドル(約55億円)の寄付を行なっています。
Ripple社はこの取り組みが「仕事の需要のために部分的に開始された」と述べており、去年はLinkedInに「ブロックチェーン」や「仮想通貨」関連の求人情報が4,500件以上も掲載され、前年より150%増加していることを説明しています。
Rippleが推進する「UniversityBlockchainResearchInitiative」
この他にもセサミストリートなどもブロックチェーンの教育プラグラムへの支援を行なっており、子供のためのDIYコーディングキットを提供する『Kano』という会社に2800万ドル(約30億9,725万円)を投資しています。
セサミストリートが投資したKanoとは
ブロックチェーン技術などのような最先端技術のスキルは、現在世界中で求められています。世界中で複数の国や企業がこれらの知識を持っている人材を獲得するために競い合っており、日本でも多くの求人が出されています。
インドやその他多く国々で加速しているこれらの技術者を教育するための取り組みは、これから世界が進もうとしている”分散型の未来”への大きな鍵となるでしょう。