米国下院議員、新たな仮想通貨規制の法案を提出|SEC・CFTCの役割と用語を初定義
この記事の要点
- 米下院がSECとCFTCの仮想通貨規制管轄を明確化
- デジタル資産・デジタル商品などの用語を初定義
- DeFiやセルフカストディは規制対象外を明記
- ステーブルコイン規制は別途法案で審議継続中
SECとCFTCの管轄分担を米下院が提唱
米国下院金融サービス委員会のフレンチ・ヒル委員長(共和党)らは2025年5月5日に、農業委員会と共同で仮想通貨(暗号資産)の市場構造に関する法案の討議草案を提出しました。
この草案は、SEC(米国証券取引委員会)とCFTC(米商品先物取引委員会)の管轄範囲を明確化し、仮想通貨・ブロックチェーン市場の重要な用語に法的な定義を初めて導入することを目的としています。
草案を発表したのはヒル金融サービス委員長とG.T.トンプソン農業委員長(共和党)を含む4名の議員で「この法案はデジタル資産の世界に必要な規制の明確性をもたらし、消費者を守りながら市場の健全な発展を支える内容だ」と説明しています。
この討議草案は、5月6日に予定された下院のデジタル資産に関する合同公聴会に合わせて提出されたものです。今後、業界関係者や専門家からの意見を集めた上で最終案をまとめる予定です。
ヒル委員長は「本草案は米国の仮想通貨市場に長期的な安定性をもたらす第一歩」とも述べており、同委員会は今後、一般からの意見を取り入れながら超党派で法案を練り上げ、最終的に大統領の署名を得ることを目指しています。
米国が示す仮想通貨規制の新基準
デジタル資産市場構造法案の用語定義
今回公開されたデジタル資産市場構造法案草案では、「デジタル資産」「デジタル商品」「ブロックチェーンシステム」「分散型ガバナンス」「成熟したブロックチェーンシステム」などの重要な概念が初めて明確に定義されました。
例えば「デジタル資産」は「暗号技術を用いた分散台帳上に記録される価値のデジタル表現全般」と定義され「デジタル商品」は商品取引所法の対象となるビットコイン(BTC)などの仮想通貨を指すとされています。
また、マイニングやステーキングの報酬といったネットワーク参加者への配布(利用者向け配布)は、有価証券の販売には当たらないことが明確に示されました。
SECとCFTCの役割分担を明確化
SEC・CFTCの監督範囲を明文化
草案では、SECとCFTCの監督範囲がはっきりと区分けされています。SECは仮想通貨のうち投資契約の性質を持つもの(証券型トークン)を所管し、登録や情報開示といった証券法の規制を適用します。
一方で、ビットコインなど証券に当たらない「デジタル商品」はCFTCが担当し、その現物取引(スポット市場)の監視を行うことになります。
本草案は2023年に下院を通過したものの停滞していた「FIT21法案」を踏襲する形で策定されており、当時議論となった「デジタル商品は原則CFTC、ネットワークの非中央集権化が達成されるまではSECも関与」という概念が盛り込まれています。
このアプローチにより、これまで不明確だった証券・商品間の管轄の境界線に法的な線引きを与える狙いがあります。
非中央集権化と成熟度の定義
また、ブロックチェーンがどれだけ分散化されているか(中央集権的でないか)や、どの程度成熟しているかを判断する具体的な基準も示されています。
草案では、あるブロックチェーンプロジェクトが「特定の1社や個人が単独で左右できない状態」を分散化の条件としており、例えば1つの組織や個人がトークン全体の10%超を持つ場合は、その情報を開示する義務が生じ、中央集権的な管理体制であることが明確になります。
また、成熟したブロックチェーンシステムは「実際の使用例があり、十分な開発と運用実績があって、公正で透明性のあるルールで動いており、もはや中央管理されていない状態」と定められています。
これらの基準を満たした場合、当初は証券的とみなされるトークンも証券法の枠組みから外れ、デジタル商品として扱われる可能性があります。
取引所・カストディ業者規制とDeFiへの配慮
仲介業者の新規登録制度
さらに草案は、仮想通貨取引の仲介業者に対する新たな登録制度も規定しています。
CFTCにはデジタル商品を取り扱う取引所や仲介業者、販売業者の登録制度を新設し、SECには証券的性質を持つトークンの取引基盤(ATS)や資産管理業者(カストディアン)に関する規則作りを求めています。
これにより、仮想通貨を取り扱う取引所やカストディ事業者などが、商品先物法や証券法の下で明確な登録・報告義務を負うことになり、市場の透明性向上が期待されます。
さらに、デジタル商品の二次市場での取引では、買い手に利益の配当や事業の持分権が与えられない場合は、証券法上の「投資契約」として規制されないことが明確に記されています。
DeFi・セルフカストディの規制除外
今回の草案には、分散型金融(DeFi)や自分で資産を管理する方法(セルフカストディ)への配慮も盛り込まれています。
中央管理者を介さず、スマートコントラクトで自動的に取引が行われるDeFiの仕組みについては、従来の証券法や商品取引所法を適用しないことが明記されました。
具体的には、第三者がユーザー資産を預かることなく取引を仲介する純粋なブロックチェーンサービスは、証券取引所やブローカーに該当しないことを示しています。
また、財務省や金融犯罪取締ネットワーク(FinCEN)が個人の仮想通貨ウォレットの自己管理に制約を課す規則を作ることを禁じる条項も含まれており、利用者が自らの資産を自ら管理する権利を国の法律で守る方針が示されています。
ステーブルコインの規制方針
なお、ステーブルコインの取り扱いについても定義が示されています。
本草案では「決済用ステーブルコイン」をデジタル資産の一種として定義しつつ、証券には分類しない方針を示しました。
ただしステーブルコインの規制枠組み自体は別途審議されており、本草案には詳細な規制内容は含まれていません。
下院金融サービス委員会は3月に「STABLE法案」というステーブルコイン規制法案をすでに可決しており、上院でも超党派の「GENIUS法案」が審議されています。
ステーブルコイン規制については与野党間で議論が続いており、本草案と並行して今後の行方が注目されています。
GENIUS法案が可決
米仮想通貨規制への期待と懸念
業界からは本草案に概ね歓迎の声が上がっています。
著名投資家らが示す規制評価
仮想通貨投資会社パラダイムの法務責任者ジャスティン・スローター氏はX(旧Twitter)で「この法案で仮想通貨の規制主導権がCFTCに戻る」と評価しつつも、「ブロックチェーンが十分に分散化するまではSECも監督権限を保持する」との見解を示しました。
また、資産運用大手ヴァンエックのマシュー・シーゲル氏は、この草案が過去の提案にあった仮想通貨投資の適格投資家(富裕層)制限を取り払い、すべての個人投資家に市場参加の門戸を開いている点を指摘しています。
草案には仮想通貨の購入に際して投資家の収入や純資産による制限を設けない旨が明記されており、従来の証券投資で求められる「適格投資家要件」が適用されないことが特徴となっています。
民主党側からの慎重姿勢と政治的対立
一方で、民主党側からは慎重姿勢も示されています。
金融サービス委員会の民主党筆頭委員であるウォーターズ議員は「トランプ大統領が自身のビジネスを通じて仮想通貨事業に関わっているため、政策判断での利益相反が懸念される」と指摘し、5月6日の公聴会を欠席する意向を示しています。
この公聴会では民主党議員の一部が途中で席を立ち、仮想通貨規制をめぐる政治的な溝が鮮明になっています。
米SECに仮想通貨推進派の波
米国での仮想通貨規制強化、法案成立へ議論加速
こうした党派間の対立はあるものの、仮想通貨の規制議論は着実に進んでおり、上院のティム・スコット銀行委員長(共和党)は「市場構造法案は今年8月までに成立する」と自信を見せています。
米国では政治家と業界関係者が前向きに規制の枠組み作りを進めており、総合的な仮想通貨規制法の制定に向けた動きが今後さらに加速するとみられます。
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Source:下院金融サービス委員会公式発表
執筆・翻訳:BITTIMES 編集部
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