北マリアナ諸島、知事の拒否権を覆し「ステーブルコイン発行法案」成立|米国初の公的発行へ

北マリアナ諸島、知事の拒否権を覆し「ステーブルコイン発行法案」成立|米国初の公的発行へ(Northern Mariana Islands overrides governor's veto to pass stablecoin issuance bill, first U.S. public launch)

この記事の要点

  • 北マリアナ諸島が米初の政府支援ステーブル発行法案成立
  • 知事拒否権を議会が覆し7月までにMUSD発行を計画
  • MUSDは米ドルと財務省証券で100%裏付けされる
  • オンラインカジノ誘致と地域経済の活性化を狙う
目次

米国初の公的ステーブルコイン発行法案が成立

米領北マリアナ諸島の下院議会は2025年5月15日、アーノルド・パラシオス知事が4月11日に行使した拒否権を14対2の投票で覆し、テニアン島による政府支援型ステーブルコイン「MUSD」の発行を可能にする法案を成立させました。

今回成立した法律により、テニアン島およびアギグアン市は、地元財務省が保有する米ドルと米国債を準備金として裏付けとしたステーブルコイン「MUSD」を発行できるようになります。

北マリアナ政府はMUSDを今年の夏頃までに発行する計画を進めており、7月に発行予定の米ワイオミング州より早く、米国初の公的機関によるドル連動型ステーブルコイン発行となる可能性があることから、仮想通貨(暗号資産)業界から大きな注目を集めています。

知事拒否権を覆した北マリアナ「MUSD」法案とは

オンラインカジノ誘致を目指すMUSD構想

北マリアナ諸島のテニアン島は人口約2,000人で、主に観光業に依存する小規模経済地域です。そのため、新たな経済活性化策としてオンラインカジノ産業を誘致し、仮想通貨を活用するための法案が提案されました。

同法案はテニアン政府にインターネット・カジノの営業ライセンスを発行する権限を付与するとともに、決済手段としてテニアン財務局が独自のステーブルコイン「MUSD」を発行・管理・償還できる権限を定めています。

共和党のジュード・ホフシュナイダー上院議員(テニアン島選出)が今年2月に提出したこの法案は、テニアン島選出の下院議員団によって3月12日に全会一致で可決され、知事に送付されました。

拒否権発動と反対派の懸念

しかし、パラシオス知事は4月11日付の拒否権行使書簡で「本法案には複数の法的問題があり、憲法違反となる可能性がある」と指摘しました。

知事はオンラインカジノがインターネット上で行われるため「テニアン島外にも影響が及ぶ可能性があること」や「違法ギャンブルを取り締まるための十分な体制が整っていないこと」を主な懸念として挙げています。

上院で唯一反対票を投じたセリーナ・ババウタ議員(民主党)は「監督体制や人員の不足」や「連邦法遵守の観点から深刻な懸念がある」と述べました。

また、下院のマリッサ・フローレス議員(無所属)も「財政が苦しくなるたびに、再びカジノに頼ることになる」と指摘し、過去の経済依存体質を批判しました。

MUSD法案可決に至った推進派の狙い

こうした反対意見に対し、法案を共同起草したカール・キングネイバース上院議員(共和党)は、本法案が「オンラインカジノを監督するための、はるかに厳格かつ効率的な手段」であると反論しました。

キングネイバース議員は、ステーブルコインを用いることで取引をソフトウェア上で追跡でき「テニアン・カジノ管理委員会にとって透明性が大幅に向上する」と述べ、地域経済の多様化に必要なイノベーションだと強調しました。

また、地元テクノロジー企業のマリアナ・レイ社もMUSDプロジェクトを積極的に支援しており、同社の共同創設者兼CTOのヴィン・アルマーニ氏は「政府の財政支出なしに、数十億ドル(数千億円)規模の投資や税収を呼び込むことができる」と法案支持を訴えました。

同社ディレクターのクライド・ノリタ氏も「地域経済は深刻な危機に瀕している」と強い危機感を示し、MUSD導入によって「地域の文化や環境、移民制度に悪影響を与えることなく」新たなビジネスを誘致できると強調しました。

議論の末、北マリアナ諸島上院は5月9日に7対1の賛成多数で知事の拒否権を覆す決定を下し、続く5月15日の下院本会議でも14対2の賛成多数で「知事の拒否権を無効」とする決議を可決しました。

法案は成立し、テニアン政府によるMUSD発行計画が正式に動き出すことになります。

「MUSD」発行計画と今後の展開

MUSDはテニアン市財務局が保有する現金・米国債を100%裏付け資産とする仮想通貨ステーブルコインで、同市が独占契約を結ぶ地元企業マリアナ・レイ社が技術インフラを提供します。

発行にはビットコインCashから派生したブロックチェーン「eCash」が採用される計画であることも明らかにされています。

マリアナ・レイ社の広報担当者によれば、5月19日に詳細を発表する予定であり、北マリアナ政府はMUSDの今年夏までの発行を目指していると見られています。

これは2025年7月に州独自のステーブルコイン発行を計画する米ワイオミング州に先駆け「米国初の公的ステーブルコイン」発行を目指す画期的な取り組みとなります。

難航する米政府のステーブルコイン規制

一方、米連邦政府によるステーブルコイン規制整備は難航しています。

米国上院では5月8日、米ドル連動型ステーブルコインの発行と監督体制を定める包括的な法案「GENIUS法」が採決にかけられましたが、上院ルールで必要とされる60票の賛成を得られず否決されました。

現在は連邦政府の高官が自身のステーブルコインを発行・推進することを禁止する条項が追加された修正案が提出されており、来週中にも再度上院での採決が行われる見込みです。

米国内で仮想通貨の統一規制が決まらない中、小規模自治体が独自のデジタル通貨発行に踏み出した北マリアナ諸島の先駆的な取り組みは、今後他の地域にも波及するかどうか仮想通貨業界から大きな注目を集めています。

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Source:北マリアナ諸島下院議会ライブ動画
執筆・翻訳:BITTIMES 編集部
サムネイル:AIによる生成画像

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BITTIMES 編集長のアバター BITTIMES 編集長 仮想通貨ライター

2016年から仮想通貨に関するニュース記事の執筆を開始し、現在に至るまで様々なWeb3関連の記事を執筆。
これまでにビットコイン、イーサリアム、DeFi、NFTなど、数百本以上の記事を執筆し、国内外の仮想通貨ニュースの動向を追い続けている。

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