この記事の要点
- ヘイズ氏がステーブルコインで6.8兆ドルの国債需要を試算
- 銀行の預金をトークン化し短期国債に活用する構想
- GENIUS法案により民間発行体の競争力が制限される可能性
- FRBの再緩和前に動くべきと投資家に警鐘を発信
- ステーブルコインは自由ではなく国債購入の手段と指摘
ヘイズ氏「ステーブルコインで米国債に6.8兆ドル需要」
仮想通貨取引所BitMEXの共同創設者であるアーサー・ヘイズ氏は2025年7月3日、米大手銀行が発行するステーブルコインによって、米国債市場に最大6.8兆ドル(約983兆円)の新たな需要が創出される可能性があるとの見解を示しました。
ヘイズ氏は自身のブログ投稿で、米政府が国債発行への依存を続けることで金融市場の不安定化を招く恐れがあると警鐘を鳴らしました。その上で、代替となる資金調達手段としてステーブルコインの活用を提案しています。
スコット・ベセント財務長官の下、米財務省は今後約5兆ドル(約722兆円)規模の国債発行が必要な状況に直面しており、利回りの急上昇を回避しつつ購入者を確保するためには「銀行が発行するステーブルコイン」が重要な役割を果たすと分析しています。
同氏によると、米大手銀行8行が抱える約6.8兆ドルもの預金資金は現在ほとんど活用されておらず、これらをトークン化(ステーブルコイン化)して短期国債に振り向ければ、市場に巨額の流動性を供給できる可能性があると指摘しました。
ドル発行がBTC価格を押上げる可能性
米国の債務問題とステーブルコイン
ヘイズ氏がこうした分析を示す背景には、米国政府が抱える巨額債務と資金調達構造の課題があります。
大手銀行の預金を国債需要に転換
同氏は、トランプ政権下でベセント氏が財務長官に就任したことに触れ、今後数年間で財政赤字の補填や借換えを目的とした5兆ドル超の国債発行が見込まれると述べました。
しかし、従来の投資家層だけでは国債への十分な需要確保は困難だとヘイズ氏は指摘しています。市場金利を5%超に押し上げることなく国債を消化するには新たな流動性供給源が必要であり、その手段として大手銀行によるステーブルコイン発行が注目されています。
同氏によれば「巨大すぎて潰せない(Too Big To Fail:TBTF)」と呼ばれる米大手銀行8行には、約6.8兆ドル規模の預金が滞留しています。
各行が独自のドル連動型ステーブルコインを発行し、預金者にその利用を促すことで、これらの休眠資金を短期国債(Tビル)への投資資金として活用する構図が描かれています。
米大手銀行JPMorganは、独自のステーブルコイン「JPMコイン(JPMD)」の発行を計画しています。
同氏は、JPMDのようなドルのトークン化により、ブロックチェーン上での透明かつ自動化されたコンプライアンス管理が実現すると分析しています。これにより年200億ドル(約2.9兆円)と推定される法令遵守コストの大幅削減が可能になると述べています。
銀行のトークン化が生む利益構造
ブロックチェーン上(オンチェーン)ではすべての取引が記録されるため、AIによる自動モニタリングを通じて違法取引の事前検出や即時の報告書作成が可能となります。ヘイズ氏は、この仕組みにより銀行が人件費を抑制しつつ、規制当局への報告もリアルタイムで実現できると指摘しています。
このようなドルのトークン化への移行は、銀行側にも大きな利益をもたらすとされています。ヘイズ氏は、預金をステーブルコインとして発行することで銀行が従来の預金に対する利息支払いを削減でき、結果として純金利マージン(利ザヤ)が拡大するとの見解を示しました。
同氏の試算によれば、仮に米国の主要8銀行が預金のトークン化に成功した場合、銀行株の時価総額は約3.91兆ドル(約566兆円)増加し、株価は現在比で最大184%上昇する可能性があると分析しています。
このような背景からヘイズ氏は「市場の多数派が注目していない投資先を探すなら、TBTF銀行株を均等に分散して購入する戦略が有望だ」と述べ、相対的に過小評価されている銘柄群への分散投資を示唆しました。
「ステーブルコインはiPhone登場前夜」
ステーブルコイン規制法案が与える影響
さらにヘイズ氏は、米上院で超党派によって可決されたステーブルコイン規制法案「GENIUS法案」にも言及し、規制強化が今後の市場構造に与える影響についても注目すべきだとしています。
「GENIUS法案」民間発行体の成長余地に制限か
同法案には、大手IT企業による独自のステーブルコイン発行を禁止するほか、発行体が一般顧客に利息や配当を提供することを禁じる内容が盛り込まれています。
ヘイズ氏は、ステーブルコイン市場の主導権が銀行に移行することにより、民間フィンテック企業の競争力が大きく制限されると警鐘を鳴らしています。特に、USDコイン(USDC)を発行するCircle(サークル)社のような企業でさえ、資金規模の面で銀行と競うのは困難だと指摘しました。
同氏は、USDCを発行するサークル社のような民間ステーブルコイン発行者でさえ、TBTF銀行が保有する6.8兆ドルの預金規模には太刀打ちできないと述べています。GENIUS法案の成立により、銀行がステーブルコイン市場で圧倒的優位に立つ構図がさらに強まるとの見解を示しました。
こうした規制の追い風を受けて、FRBは2025年、銀行による国債保有に関する資本規制を緩和しました。これにより、約5.5兆ドル(約795兆円)の資産運用の余力(バランスシート余力)が生まれ、銀行が国債を大量に購入しやすい環境が整えられつつあります。
ヘイズ氏は最終的に、米政府によるステーブルコイン推進の真の目的は、革新的な金融サービスの創出ではなく、自国の巨額債務を実質的に引き受ける「債務の貨幣化(monetization)」にあると指摘しています。
ステーブルコインの本質に警鐘
さらにヘイズ氏は「FRBが量的緩和を再開するのを待ってから動くのでは、先行して投資した投資家に利益を奪われる可能性がある」と警鐘を鳴らしました。また、ビットコイン(BTC)やJPMorgan株など、早期に動いた投資家が優位に立つ可能性があると述べています。
同氏は、ステーブルコインを「木馬」に例え、それがすでに既存の金融システム内に入り込んでいると表現しました。そして「この仕組みが本格稼働すれば、“自由”ではなく、株式市場の浮揚や財政赤字の穴埋めを目的とした国債購入資金が放出される」との見方を示しています。
これらの主張は、ヘイズ氏が以前から主張してきた「金融当局は最終的に、インフレの抑制や資産価格維持のためにあらゆる流動性供給策を講じる」との見解を補完するものとなっています。
同氏の分析は一部で過激と受け取られる可能性もありますが、その背景には、米国の高水準にある金利と巨額の国家債務という現実があります。実際、市場では「安定的な資金需要とステーブルコインの拡大により、伝統的金融とデジタル資産が融合し始めている」との見方も出ています。
ヘイズ氏の見解には賛否があるものの、その内容は金融市場の関係者にとっても注目すべき有力な視点の一つとなっています。
「ダークステーブルコイン」が台頭?
銀行・企業が注目するステーブルコイン
リップルとサークルが銀行免許申請
リップル社のガーリングハウスCEOは7月2日、米通貨監督庁(OCC)に全国銀行免許を申請し、自社のドル連動型ステーブルコイン「RLUSD」を連邦規制下に置く方針を明らかにしました。なお、サークル社も同様に信託銀行免許を申請しています。
銀行免許を取得することで、ステーブルコインの準備金を米連邦準備制度理事会(FRB)に直接預け入れることが可能となり、決済インフラへのアクセス向上や仲介コストの削減など、利便性の向上が期待されています。
米テック大手もステーブルコインに関心
米国の民間企業においても、ステーブルコインの活用に向けた動きが加速しています。
2025年6月には、アマゾン(Amazon)やウォルマート(Walmart)などの米小売大手が、決済手数料の削減を目的として、独自のドル連動型ステーブルコインの発行を検討していることが報じられました。
ウォールストリートジャーナルによれば、両社はクレジットカード決済に伴う高額な手数料を削減するため、ブロックチェーン上で決済が可能な自社発行のコインの導入を模索しています。ただし、現時点では正式な発行には至っていません。
また、米フォーチュン誌によると、Apple、X(旧Twitter)、Airbnb、Google Cloudなどの米テック大手が、国際送金や決済の効率化を目的に、ステーブルコインの導入に向けた初期協議を開始しています。
こうした動きの背景には、米国内での規制整備の進展によって、将来的な法的安定性が期待されていることがあります。中でもAppleは、自社の決済サービス「Apple Pay」へのステーブルコインの統合を検討していると伝えられています。
さらに米決済大手のMastercardも5月、提携する金融機関を通じて、ステーブルコインを用いた日常決済の実現に向けたパイロットプログラムを開始しました。これにより、従来の金融ネットワークとステーブルコイン技術の融合が本格的に進展しています。
業界専門家からは「ステーブルコインは国際銀行間通信協会(SWIFT)以来の決済イノベーション」との声も出ており、2025年後半に向けてステーブルコインがグローバル金融インフラに変革をもたらす可能性が注目されています。
※価格は執筆時点でのレート換算(1ドル=144.59 円)
ステーブルコイン関連の注目記事はこちら
Source:アーサー・ヘイズ氏公式ブログ
サムネイル:AIによる生成画像





























