この記事の要点
- 日銀がCBDCフォーラム総括文書を公表、84回の議論を機能別に整理
- 台帳管理・KYC・オフライン決済などデジタル円の設計論点を公開
日銀、CBDCフォーラム総括文書を公開
日本銀行決済機構局は2026年6月10日、中央銀行デジタル通貨(CBDC)の「パイロット実験」に関する進捗報告書の別冊として、CBDCフォーラムにおけるこれまでの議論を総括した文書を公表しました。
別冊では、2023年7月のフォーラム設置以降に84回にわたり行われた会合の議論が機能別に構成されており、デジタル円を巡る官民の議論内容を機能別にたどれるよう整理されています。
フォーラムは「実験用システムの構築と検証」と並ぶパイロット実験の2本柱として運営され、金融機関やスタートアップ企業など計64社(2024年3月時点)が参加し、延べ163社が会合で意見交換を重ねてきました。
あわせて日本銀行は、2026年度から7つのワーキンググループ(WG)を3つのディスカッショングループ(DG)へ再編する方針を示しており、決済の将来像をより横断的に検討する体制へ移行するとしています。
米上院がCBDC発行禁止を可決
日銀CBDC、KYCとオフライン決済を議論
「中央集中か分担か」台帳設計の論点
日本銀行はCBDCの台帳管理について、相対的に複雑で多くの項目を検証できるとの考えから、中央銀行と仲介機関が台帳を分けて管理する「分担管理型」を前提に検討を進めてきました。
別冊では、中央銀行がすべての口座残高を管理する集中管理型について、効率性を評価する意見があった一方で、耐障害性やレジリエンス(障害時の回復力)の確保が重要な論点として議論されたと報告されています。
分担管理型については、プライバシーへの配慮や単一障害点の回避といった利点が挙げられる一方、複数の台帳間でいかに整合性を維持するかが検討課題になったとまとめています。
台帳のデータモデルでは、ビットコイン(BTC)などが採用するUTXOモデル(取引単位で記録する形式)やNoSQL・NewSQLといった分散データベース技術も議題に上っており、先進的な技術ほど学習コストや運用管理面で負担が大きいとの意見が紹介されています。
民間デジタルマネーへの影響と共存策
民間の決済事業者との関係では、CBDCに電子マネー等のファンドソース(チャージ原資)やキャッシュレス決済手段同士をつなぐブリッジ(中継)、災害時・障害時のバックアップといった役割を期待する声が会合で聞かれたとしています。
その一方で、CBDCが取引の都度即時に店舗へ入金される場合、決済代金をまとめて振り込む既存の民間デジタルマネーの事業モデルに影響が及ぶ可能性も指摘されています。
こうした背景から、CBDCの交換や支払いに一定の利用制限を設ける案やポイント等の特典を付与しない案に加え、あえて「絶妙に使いにくく」することで民間マネーとの水平的な共存を図る考え方まで議論されたと紹介しています。
本人確認(KYC)を巡っては、なりすまし対策としてマイナンバーカードの公的個人認証に容貌撮影を組み合わせる案が検討対象として取り上げられました。
また、10万円以下の取引については身元確認を行わない設計とすることで、ユニバーサルアクセス(誰もが利用できる環境)を一定程度確保する案も論点として取り上げられました。
災害対応とAI決済、CBDCの拡張機能
追加サービスでは、資金を事前に確保するエスクロー機能や、地域・品目を限定する用途制限機能(パーパスバウンドマネー)へのニーズが会合で共有されたとしています。
ただしセキュリティリスクへの配慮から、こうした機能はCBDCシステムの外側で実現する「外部プログラム方式」が望ましいとの意見も示されています。
災害時に有用なオフライン決済については、技術的なハードルやコストを踏まえ、後から台帳上の資金移動を反映する「ディファードオフライン決済」の導入可能性も検討されたと記しています。
会合では、AIエージェントが本格普及した場合、高速かつ大量のマイクロペイメント(少額決済)が発生するとの見方も示されました。
その際の決済基盤としては、P2P型(端末同士が直接つながる形)の分散アーキテクチャーの方が親和性を持つ可能性があるとの意見も紹介されています。
7中銀がトークン化決済を実証
フォーラム再編、横断的検討体制へ移行
こうした議論を重ねてきたフォーラムは2026年度から運営体制が見直され、テーマごとに設置されてきた7つのWGは、決済の将来像を横断的に検討する3つのDGへ再編されます。
別冊は、この運営見直しにあわせてフォーラムで蓄積された知見を整理し、CBDCに関する議論の全体像を共有する目的で作成されたと説明しています。
実験の土台となるパイロット実験は2023年4月に開始されており、実験用システムの構築・検証と民間事業者を交えた議論が両輪として進められてきました。
別冊では、BISイノベーションハブとイングランド銀行による「Project Rosalind(プロジェクト・ロザリンド)」やカンボジアの「バコン」など、海外事例を踏まえた議論も紹介されています。
そのなかでは国際標準を意識した検討の必要性にも言及されており、これまでの会合の議事概要は日本銀行のウェブサイトで順次公表されてきました。
今後は3つのDGによる新たな体制のもとで決済の将来像を巡る議論が進められる予定です。
関連の注目記事はこちら
Source:日本銀行決済機構局 報告書(別冊)
サムネイル:Shutterstockのライセンス許諾により使用



























