ブロックチェーンは「教育分野」をどのように変えるのか?
ブロックチェーン技術は、教育のあり方を根本から変える可能性があります。現代社会では学校の指導方法や先生と生徒の付き合い方などに対する批判的なニュースも頻繁に報じられており、不登校やいじめ、長時間労働や教員の不足、授業内容への指摘といった非常に幅広い事柄が問題として取り上げられています。このような現状を改善できる理想的な手段として「オンライン学習」などと共に注目を集めている「Blockchain」が業界にどのような変化をもたらすのかを見てみましょう。
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業界で求められる「理想的な教育制度」
日本は"伝統"を大切にする文化が強く根付いている国でもあるため、これまでに受け継がれてきた教育制度が現代の教育現場にも強く反映されています。これによって規律の整った環境が今も多くの学校で保たれているのですが、その一方では生徒一人一人の"個性"を失いかねない「マニュアル化した詰め込み教育」なども問題となっており、規律を保った上で個性を尊重できる理想的な教育制度が求められています。
テクノロジーの発展に伴い"全く新しい価値観"が世の中に浸透してきたことによって、現代社会では多くの場面で「二極化」する傾向が見え始めており、教育現場においてもこれらの影響が現れてきています。非常に多くの人々が集団生活を送る「学校」という施設には、それだけ多くの様々な意見が寄せられることになるため、全ての声に対応できる"理想的な教育制度"を確立することは難しく、多くの教育関係者が頭を悩ませています。
このような現状は、教育現場で働く教師側にも大きな負担を与えており、長時間労働の問題やそれに伴う退職者の増加、教員の不足、さらなる労働環境の悪化といった悪循環を生み出しています。2016年に文部科学省が実施した「教員勤務実態調査」によれば、小学校教員の33.5%、中学校教員の57.7%が週60時間以上勤務していることが報告されており、教師を目指す若者も少なくなっているため、今後のさらなる人手不足が懸念されています。
教育の分野におけるこれらの大規模な問題は、そう簡単に解決できるものではないものの、ブロックチェーン技術を様々な面に応用することによって、教育に関連する複数の問題を効率化できることはすでにいくつかの事例で実証されており、この技術を上手く活用することで現在の問題を大きく改善できるのではないか?といった考え方が広がり始めています。
ブロックチェーン技術の導入によって期待される具体的な変化としては、以下のようなことが挙げられます。
低コスト・高品質な「オンライン学習」
現代社会はスマートフォンが普及したことによってYoutubeなどのオンライン・プラットフォームでも講義を視聴できる時代となっており、実際にそれらのプラットフォームを通じて講義を行う高校や大学、塾なども増加してきています。
このようなオンライン学習は自身の好きな講義を視聴できるものの運営者が存在しているため、質の良い授業やコンテンツ、教師が揃っているか?などには限界があります。
ブロックチェーンを活用したオンライン学習は、管理者が不在となるため授業やコンテンツの量や質は上がり、コストを下げることもできるため、学生の経済面の負担も極限まで下げることが可能になります。
教師と学生の「直接的指導」
塾や予備校だけではどうしても競争過多に陥ってしまい、人気の教師の教えに注目が集まってしまいがちで、個人の興味などにフォーカスした授業やコンテンツは不足し学生の学習意欲が失われてしまうことも考えられます。
しかし、ブロックチェーンやスマートコントラクトを組み合わせれば、塾のような仲介者の介入を必要とせずに先生と生徒を直接ピア・ツー・ピア(P2P)でマッチングすることが可能となります。
これは先生や生徒の両方に有益なものであり、学生は「学びに対する楽しさや学習意欲を維持したまま結果を出す」ことができ、先生や講師も「生徒が結果を出すことによって評価を受ける」ことができます。
仲介者を排除した「適切な授業料」
仲介業者が介入しなければ授業料を下げることもできるため、金銭的な理由から今まで塾などに行けなかった子供たちも教育を受けることができるようになり、先生や講師も正当な報酬を受け取る事が可能になります。
また自身の授業のコンテンツや教材をブロックチェーン・プラットフォーム上にアップロードして収入を得ることできるようになり、それを観た保護者や生徒たちが新たに受講希望者が出てくることも考えられます。
学歴や資格の「改ざん防止」
ブロックチェーンの持つ「情報を変更できない」という特徴を応用すれば成績や卒業証明の改ざんが不可能になります。これにより学校側のミスや悪意を持った人々による「意図的なデータ紛失」「学歴詐称」などの行為を防ぐことが可能になり、信用性を担保することができます。
教育機関の証明書を検証するためにブロックチェーン技術を活用する取り組みは、この業界において最も一般的な応用事例にもなっており、実際に資格情報や証明書をブロックチェーンで保存できるサービスも登場しています。
受験や先生も不要に?
10月に開催された「NPO法人CCC-TIES」主催のシンポジウムに登壇した、デジタルハリウッド大学の大学院教授 佐藤昌宏(さとう まさひろ)氏は、Education(教育)とTechnology(テクノロジー)を組み合わせたEdTech(エドテック)分野が目指す「デジタルテクノロジーをベースにした教育制度や仕組みにリデザインする」と言う視点からブロックチェーンを見ると『受験はなくなるかもしれない』と話しています。
同氏は、学習ログを日常的に記録すれば「その人が何を学び、どんな能力を持っているか」が一目瞭然となり、それらのデータを元にして各方面からの評価を受けることができるため、一発勝負で合否を決める受験は無意味になるのではないかという持論を展開しています。
また「NPO法人CCC-TIES附置研究所」の主任研究員である堀真寿美(ほり ますみ)さんは、学びたい個人同士が主体となってブロックチェーン上に成果を上げれば、それを学びたい個人が仮想通貨で報酬を支払い教材を受け取ることも可能となるため、教師がいなくても学べる時代が来ると予測しています。
これは「価値のインターネット」でもあり、学校や教師が不在の場合でも個人間で学習に取り組んでいける環境を実現するものとなります。
ブロックチェーン導入は大規模な「教育改革」
従来の教育システムはいわゆる「中央集権型」に属するものであり、ブロックチェーン技術は「分散型」であるため、ブロックチェーン技術の導入は大規模な「教育改革」であるといえます。
そのため実際にこれらの技術を取り入れていく場合には多くの混乱が伴う可能性も高く、解決すべき数多くの課題があるのも事実です、しかしこれらの技術を取り入れることによって得られる利点も非常に多いため、現時点でも多くの有名大学や教育機関が具体的な活用方法を模索しています。
これまでにも様々な業界に大きな変化をもたらしている「ブロックチェーン」の技術が、教育の分野にどのような変化を与え、どう活用されていくのかは、今後の市場の成長を予想する上でも重要な指標の一つになると言えるでしょう。
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