
ビットコイン、関税の嵐を乗り切る「安全資産」としての可能性|バイナンスレポートまとめ
米国の大規模な関税引き上げにより世界経済の先行き不安が高まる中、ビットコイン(BTC)が「安全資産」として機能するのか、市場の関心が高まっています。
米トランプ政権による大規模な関税発動を受けて金融市場はリスク回避の動きを見せ、金(ゴールド)や米国債など伝統的な安全資産が買われる一方で、ビットコインを含む仮想通貨市場は値下がりしました。
こうした状況下で最大手仮想通貨取引所Binance(バイナンス)の調査部門「バイナンス・リサーチ」が2025年4月7日、ビットコインの安全資産としての可能性について分析した公式レポートを公開しました。
米関税ショックでBTC急落、資金は金へ
2025年に入り米国の関税政策が急転換しました。
ドナルド・トランプ大統領の就任以降、米国は数十年ぶりとなる強硬な通商政策を打ち出し、各国との間で「相互関税」とも称される大規模な関税引き上げを次々と表明しています。
4月2日には全輸入品に一律10%の追加関税を課す措置が発表され、中国からの輸入品には34%、日本には24%など国別にも高関税が課されることが示されています。これに対し各国も報復関税を打ち出し、世界的に貿易戦争への懸念が一気に高まりました。
金融市場はこの「関税の嵐」に敏感に反応し、典型的なリスクオフ(リスク回避)の動きが広がっています。
米国株式市場では主要指数が急落し、一時ナスダック指数が弱気相場入りする事態となりました。安全資産とされる米国債が買われ利回りが低下し、金価格は連日で過去最高値を更新するほど上昇しています。
4月初旬までの関税発表を受けて金相場は約10%上昇し、投資家が不透明な景気見通しから「安全な避難先」を求めていることが示されました。一方で仮想通貨市場からは資金流出が起こり、ビットコイン価格も急落しています。
4月3日にはBTC価格が関税措置の発表直前に約88,000ドル(約1,300万円)だったものが、一時83,000ドル(約1,220万円)近辺まで急落し、わずか1日の間に約5,000ドルもの下落幅を記録しました。
また、4月7日には一時年初来安値となる約5.5%安の水準まで落ち込み、米国市場に上場するCoinbase(コインベース)やストラテジー(旧マイクロストラテジー)などの仮想通貨関連株も軒並み7~10%以上の急落となっています。
これらが示すように、関税ショックで仮想通貨は大きな売り圧力にさらされ、安全資産として期待する向きにとっては厳しい展開となっています。
相互関税発表でBTC価格が急落
「ビットコインの安全資産性」バイナンス・リサーチ分析
こうした市場急変を踏まえ、バイナンス・リサーチの公式レポートではビットコインを含む仮想通貨市場への影響をデータで詳細に分析し、安全資産としてのビットコインの可能性を探っています。
関税ショックによる仮想通貨市場の動向
レポートによれば、2025年に入ってからの相次ぐ関税発表により仮想通貨の時価総額は1月の高値から約25.9%(1兆ドル規模)も減少し、ビットコイン価格も一時19.1%下落したと指摘しています。
特にアルトコインはビットコイン以上の大幅下落に見舞われ、イーサリアム(ETH)は40%以上、注目を集めていたミームコインやAI関連トークンは50%以上も暴落するなど、リスク資産としての特性が鮮明に現れました。
一方、従来型の安全資産である債券や金が上昇する様子からも、市場参加者がリスク回避に動いたことが示されています。
ビットコイン「デジタルゴールド」としての将来性
レポートでは、市場参加者が「安全資産」としてのビットコインをどのように捉えているのか、調査データをもとに明確に示しています。
バイナンス・リサーチが引用した米銀行のファンドマネージャー調査では、仮に貿易戦争が激化した場合に「最も投資したい資産」はビットコインと答えた人がわずか3%しかおらず、金と回答した人が58%であったことが報告されています。この結果は現在の市場環境では「ビットコイン=安全資産」という見方が主流ではないことを示しています。
ただし、同レポートは短期的な値動きだけでビットコインの本質を判断するのは早計だとも指摘しています。ビットコインは急激なショック時には株式市場と相関が高まる一方で、平常時には相関関係が低下する傾向があります。
2020年以降の統計で見ると、BTCと米株式(S&P500)の90日相関係数は平均0.32、金との相関は0.12と伝統資産とは異なる値動きを維持しており、常に株式と連動するわけではないと報告されています。
関税激化でビットコインの真価が問われる
今回の関税ショック下でもビットコインが他の資産と異なる動きを見せた場面がありました。レポートによると、関税発表直後にはBTCも売られたものの、伝統的リスク資産が下落した日に逆に値を保つ、あるいは反発する局面もあったと説明されています。
またビットコインの長期保有者の保有量は足元でも増加基調にあり、最近の乱高下局面でも大きな投げ売りは起きていないことが確認されています。これは短期的な価格変動にも関わらず、ビットコインを「価値の保存先」として保持し続ける投資家層が一定数存在することを示唆しています。
バイナンス・リサーチは、今回の貿易摩擦が長引く局面でも「ビットコインが再び非中央集権・非国家の資産としての魅力を発揮し、安全資産的な立ち位置を取り戻せるか」が今後の重要な焦点になると分析しています。
特に米連邦準備制度理事会(FRB)が景気悪化に直面して金融緩和(利下げ)に転じるような事態になれば、インフレが高止まりする中でビットコインがインフレ耐性資産として再評価される可能性もあると指摘しています。
一方、短期的には関税措置が米ドル高につながる影響も無視できず、ドルと逆相関の動きを見せることもあるBTCにとって不利になる場面もあり得るため、状況次第で両面の要因が作用する可能性があります。
総じてレポートは、貿易戦争という新たな経済環境の中でビットコインが資産分散に貢献する「デジタルゴールド」になり得るかについて、今後数ヶ月の動向が試金石になると結論付けています。
BTCが資金の新たな逃避先に
BTCの安全資産論|専門家の見解
世界的な関税問題を背景に、ビットコインが本当に安全資産として機能するのか、専門家の間でも意見が分かれています。
ビットコインは依然としてリスク資産
足元の市場では「ビットコインは依然リスク資産の範疇にある」との見方が専門家から聞かれます。
イギリスの大手投資会社ハーグリーブス・ランズダウンのシニア投資アナリスト、スザンナ・ストリーター氏は「投資家の強いリスク回避姿勢が、米政権による仮想通貨への好意的な姿勢への期待感を打ち消している」と指摘しています。
仮想通貨起業家のトレバー・コヴァルコ氏も「現状では仮想通貨は昔ながらのリスク資産と変わらない。真に有用な安全資産となるには株式との連動を断ち切る必要がある」と述べており、ビットコインが他のリスク資産と一線を画する動きを示すことが重要であると強調しています。
ビットコインは安全資産になり得る
一方で、長年のビットコイン支持者たちは今回の混乱をBTCが真価を発揮する契機になり得るとの見解もあります。
米資産運用大手ブラックロックのCEOであるラリー・フィンク氏は以前より「巨額の政府債務が続くなら、いずれ投資家は米ドルよりビットコインを安全な資産とみなすようになる」との見解を示しています。
また、仮想通貨取引所BitMEX(ビットメックス)の創設者であるアーサー・ヘイズ氏も「貿易戦争の激化はビットコインと金を新たな世界の準備資産に押し上げる可能性がある」と指摘しており、関税によるドル基軸体制への不信が高まればビットコイン需要が飛躍的に伸びるとのシナリオも語られています。
ドル体制の終焉で金・BTCの時代に?
関税の嵐でビットコインは避難先となるか
このように、金融不安が極度に高まれば法定通貨離れからビットコインへの資金流入が加速するという見方も根強く存在します。
今回の関税問題は、ビットコインにとって「関税の嵐」を乗り切る安全資産となれるかどうかを試す局面と言えるのかもしれません。
バイナンス・リサーチが指摘するように、ビットコインが今後グローバル経済の中で非中央集権型の価値保存手段として地位を確立できるか注視が必要です。
市場関係者の間でも意見は分かれており、最終的には実際の価格推移と投資資金の動向がその答えを示すことになると見られています。
※価格は執筆時点でのレート換算(1ドル=147.38円)
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Source:Binanceレポート
執筆・翻訳:BITTIMES 編集部
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