JPモルガン、ビットコイン購入解禁を発表
米大手銀行JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEOは、2025年5月19日に開催された年次投資家デーにおいて、顧客向けビットコイン(BTC)購入サービスを近日中に開始する方針を明らかにしました。
CNBCの報道によると、ダイモン氏は株主に対し「JPモルガンとして皆さんがビットコインを購入できるようにするつもりだ」と述べる一方、同行がビットコインの資産管理(カストディ)サービスを提供する計画はないことも付け加えました。
これは同氏が長年表明してきた懐疑的な姿勢からの大きな転換と受け止められています。
ただし、ダイモン氏は依然として仮想通貨に否定的な見解を崩しておらず、ビットコインが人身売買やマネーロンダリングなどの違法行為に利用されているとして「支持できない」との立場も改めて強調しました。
この発言はビットコイン市場の活況を背景にしたサービス拡充と、自身の否定的見解とのバランスを取ったものとして大きな注目を集めています。
トランプ氏とダイモン氏の対立
ダイモンCEOのビットコイン否定発言の歴史
「ビットコインは詐欺」発言で市場が動揺
ジェイミー・ダイモン氏はこれまでビットコインに対して一貫して批判的な発言を繰り返してきました。
2017年9月には「ビットコインは詐欺だ(Bitcoin is a fraud)」と公言し「自社のトレーダーがビットコインを取引していたら即座に解雇する」とまで述べています。
この発言によりビットコイン価格は急落し、JPモルガンが価格下落後に大量購入していたことから市場操作の疑いで提訴される事態にまで発展しました。
発言撤回後も続く否定的なスタンス
翌2018年初頭には「あの発言は後悔している」と語り「ブロックチェーン技術は本物だが、ビットコインには関心がない」と軌道修正したものの、その後も度々否定的な見解を示しています。
2021年10月には「ビットコインは個人的に見れば無価値だ」と発言し、同時に各国政府が近い将来必ず規制を強化するだろうとの見解を示しました。
さらに2023年1月のインタビューでは「ビットコイン自体は大げさに宣伝された詐欺であり、ペットロック(石のおもちゃ)みたいなものだ」と痛烈に批判しています。
JPモルガンの顧客ニーズへの対応と方針転換
このようにダイモン氏は一貫してビットコインを否定してきた一方で、JPモルガン社内では顧客ニーズの高まりを受けて対応を模索する動きも進んでいました。
同行は2021年には富裕層顧客向けに仮想通貨ファンドへの投資アクセスを解禁し、金融アドバイザーがビットコイン投資信託など5つの仮想通貨商品を取引できるようにしています。
ダイモン氏自身も「自分は推奨しないが、顧客が購入する権利は守る」とのスタンスを示しており、個人的な意見と顧客サービスとの間でバランスを取る姿勢を強調しました。
「タバコは吸わない方が良いが、吸う権利を認めるのと同じように、ビットコインを購入する権利も認める」という同氏の発言は、自らの否定的見解は維持しつつ顧客の要望には応える今回の方針転換を端的に表現しています。
「私は何も言わない方がいいだろう」
JPモルガンと機関投資家のBTC戦略
JPモルガンが推進するデジタル金融戦略
今回の背景には、仮想通貨市場の成熟と機関投資家の参入拡大があります。
JPモルガン自体も近年はブロックチェーン技術やデジタル資産分野に注力しており、2019年には独自の米ドル連動型デジタル通貨「JPMコイン」を発行しました。
JPMコインは現在、1日あたり10億ドル(約1,500億円)規模の決済処理に活用されており、2023年にはユーロ建て送金にも対応開始するなど、活用範囲を着実に拡大しています。
同行のブロックチェーン専門部門「Onyx(オニキス)」は一般に公開されているブロックチェーン上で初めてトークン化資産の決済テストにも成功しており、米国債をブロックチェーン上で決済する実験を行いました。
これらの取り組みは、ダイモン氏自身が「ブロックチェーンは世間で騒がれているほど重要ではない」と発言する一方で、JPモルガンとしてはブロックチェーン技術の活用に積極的に取り組んでいることを示しています。
ビットコイン市場へ金融大手が本格参入
他の大手金融機関も仮想通貨分野に参入を強めています。
競合のゴールドマン・サックスは、2024年末時点で15億ドル(約2,300億円)相当のビットコインETFを保有していることが公開資料で明らかになりました。
特にブラックロック社の「iシェアーズ・ビットコイン・トラスト(IBIT)」をゴールドマン・サックスが約12億ドル(約1,800億円)分保有しており、同社はIBIT最大の機関投資家となっています。
資産運用世界大手のブラックロックは2023年に米国初の現物ビットコインETFとなるIBITを申請しました。その後、SEC(米証券取引委員会)が2024年1月に方針転換して複数の現物ビットコインETFを一斉承認したことで上場が実現し、IBITは急速に資金を集めることに成功しました。
IBITの運用資産残高は2025年5月時点で約447億ドル(約6.5兆円)に達し、従来最大規模だったグレイスケール社のビットコイン信託を上回り、世界最大のビットコイン投資ファンドとなっています。
また、モルガン・スタンレーも昨年8月から富裕層顧客への現物ビットコインETF提案を開始し、傘下のオンライン証券Eトレードを通じた仮想通貨取引提供も計画していることも明らかになっています。
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ダイモン氏の方針転換が意味するもの
こうした大手金融機関参入の追い風を受け、ビットコイン価格は最近1BTCあたり10万ドルの大台を突破し、現在は約10万6,000ドル(約1,530万円)で推移しています。
規制面でも米国での現物ビットコインETF承認や欧州連合のMiCA(仮想通貨市場規制法)施行など法整備が進みつつあり、仮想通貨の制度的枠組みが着実に構築されています。
JPモルガンによるビットコイン購入解禁の方針は、こうした市場環境の変化に対応した戦略転換と言えます。
依然として個人的に懐疑派であるダイモンCEOが顧客需要に応える形で歩み寄った今回の決断は、伝統的金融機関における仮想通貨受容の象徴的な出来事です。
今回のJPモルガンの発表は、伝統的な金融業界が仮想通貨市場を本格的に取り込む新たな時代の到来を示すものとして、国内外の金融関係者や投資家から大きな注目を集めています。
各国の金融大手が次々と仮想通貨市場に参入する中、長年ビットコインに否定的だったダイモン氏の方針転換は、金融業界における仮想通貨の位置づけが新段階に突入したことを表す重要な転換点と評価されています。
※価格は執筆時点でのレート換算(1ドル=144.82円)
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Source:CNBC報道
執筆・翻訳:BITTIMES 編集部
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