この記事の要点
- 英スタンダードチャータード銀、FalconXと提携
- シンガポールを拠点にアジア市場で事業を本格化
- 仮想通貨事業拡大のため銀行インフラ提供を開始
- 世界の銀行業界で仮想通貨分野への参入が加速中
英大手銀行、FalconXと提携で仮想通貨事業を強化
イギリスの大手銀行スタンダードチャータード銀行は2025年5月14日、仮想通貨の機関投資家向けプライムブローカーであるファルコンX(FalconX)との戦略的提携を発表しました。
発表によると、提携の第一段階として、スタンダードチャータード銀行がファルコンXにグローバルで包括的な銀行サービスを提供し、同社の機関投資家向けプラットフォームの強化を支援します。
スタンダードチャータード銀行は、同行の幅広い外国為替(FX)ネットワークと銀行インフラへのアクセスをファルコンXに統合することで、機関投資家に対して法定通貨による決済スピードの向上や十分な流動性を提供し、運用リスクを低減することを目指しています。
スタンダードチャータード銀行のアジア地域担当責任者であるルーク・ボーランド氏は次のように述べています。
FalconXとの提携は、仮想通貨エコシステムの発展に向けた当社の取り組みを象徴しています。
機関投資家による仮想通貨への需要が高まり続ける中、私たちは、FalconXのような企業が世界水準の取引および金融ソリューションを提供できるよう、銀行インフラを通じて支援できることを誇りに思います。
「XRPの時価総額はETHを超える」
スタンダードチャータード、アジア市場攻略へ本腰
アジア市場から中東・欧米へ
スタンダードチャータード銀行がファルコンXと提携した背景には、アジア市場を中心とした仮想通貨ビジネス拡大戦略があります。
同行は近年、仮想通貨関連サービスの拡充に力を入れており、2024年にはアラブ首長国連邦(UAE)で仮想通貨のカストディ(保管)サービスを開始しました。
さらに2025年1月には欧州連合向けに仮想通貨カストディ拠点としてルクセンブルクに新会社を設立するなど積極的な展開を見せています。
今年4月には仮想通貨取引所のOKX(オーケーエックス)と連携し、ドバイの規制枠組み下で機関投資家が仮想通貨を担保に資金調達できる「コラテラル担保サービス」の試験運用も開始しました。
今回のファルコンXとの協業もこうした戦略の一環であり、まずシンガポールでサービス提供を開始し、その後アジア地域の機関投資家を取り込み、中東や欧米へと順次サービスを拡大する計画です。
アジアの仮想通貨規制の最新動向
アジア・中東地域では近年、金融当局による規制整備が進むとともに、企業の仮想通貨(暗号資産)分野への参入も加速しています。
例えば中東ドバイでは2025年3月、政府系大手銀行エミレーツNBDが若年層向けデジタル銀行アプリで仮想通貨の取引サービスを開始しました。
このサービスではビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)はもちろん、ソラナ(SOL)やXRP、カルダノ(ADA)といった主要アルトコインの売買にも対応していると報じられています。
また日本においても、2023年に改正資金決済法が施行されステーブルコインの発行解禁が実現したことを受け、メガバンクの三菱UFJ信託銀行が国内初の円建てステーブルコイン発行計画を進めるなど、大手銀行による仮想通貨分野への取り組みが活発化しています。
こうした地域の動向は、アジア市場での存在感を高めたいスタンダードチャータード銀行にとって追い風になる可能性があります。
日本メガバンクがステーブルコイン市場参入
仮想通貨の黄金時代が本格到来か
グローバルな視点でも、機関投資家による仮想通貨需要の高まりが銀行業界の戦略に大きな影響を与えています。
2024年11月の米大統領選挙で仮想通貨に友好的とされるドナルド・トランプ氏が当選した直後、仮想通貨市場の時価総額は過去最高の3兆ドル(約438兆円)を突破し「仮想通貨の黄金時代」到来への期待感が高まりました。
スタンダードチャータード銀行自身も昨年公表したレポートで「トランプ氏の再選は仮想通貨業界にとってプラスになる」との見解を示し、規制緩和やビットコイン現物ETF承認による市場拡大を予測しています。
トランプ政権下の米国では今年4月、連邦準備制度理事会(FRB)が銀行の仮想通貨関連業務開始に求めていた事前承認制を撤廃しました。
また通貨監督庁(OCC)や連邦預金保険公社(FDIC)も仮想通貨リスクに関する警告声明を相次いで撤回するなど、金融規制当局が仮想通貨分野への態度を軟化させています。
スタンダードチャータード銀行はこうした流れも踏まえ「2026年までに仮想通貨全体の市場規模は10兆ドル(約1,460兆円)に達する」との強気予測を示しており、今後の市場拡大を見据えた先行投資として事業基盤を整備しているとみられます。
「アメリカが仮想通貨の黄金時代を築く」
世界の銀行業界で進む仮想通貨革命
エリック・トランプ氏「銀行は変革か消滅か」
仮想通貨分野への本格参入はスタンダードチャータード銀行だけではなく、世界の金融機関全体で加速する大きな流れとなっています。
ドナルド・トランプ大統領の次男で実業家のエリック・トランプ氏は、今年5月に放送された米CNBCのインタビューで「従来型の銀行は仮想通貨に対応しなければ今後10年以内に姿を消すだろう」と警告し、銀行業界は変革か消滅かの岐路に立たされているとの見解を示しました。
この指摘にも象徴されるように、近年は欧米を中心に大手銀行が次々と仮想通貨関連サービスに乗り出しています。
銀行は仮想通貨対応か消滅の2択
銀行業界が進める仮想通貨分野への本格参入
米大手銀行JPモルガン・チェースは独自のブロックチェーン決済ネットワーク「Onyx(オニキス)」を通じて24時間365日稼働の国際送金サービスを拡充しています。今年4月にはロンドンで英ポンド建てのブロックチェーン預金口座を開設し、従来の銀行システムでは難しかった即時決済を実現しました。
また、米最古の銀行バンク・オブ・ニューヨーク・メロン(BNYメロン)をはじめ複数の大手金融機関が仮想通貨のカストディ(保管)事業に参入し始めています。
この動きは資産運用大手ブラックロックやフィデリティなどの参入とも相まって、機関投資家向けのビットコインETFや仮想通貨保管サービスの市場拡大につながるとの見方が強まっています。
さらに、米バンク・オブ・アメリカ(BofA)のブライアン・モイニハンCEOは2025年1月の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で「規制が整えば米銀行業界は仮想通貨での決済に本格的に乗り出すだろう」と表明し、自社も既に多数のブロックチェーン関連特許を保有して参入準備が整っていることを明らかにしました。
欧州に目を向けても、スタンダードチャータード銀行と同様にHSBCやソシエテ・ジェネラル、ドイツ銀行などが仮想通貨のカストディ事業やブロックチェーン活用に乗り出しており、中東・アジアも含めた世界的な金融版図で仮想通貨を巡る競争が本格化しています。
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大手銀行の仮想通貨参入が金融市場にもたらす変革
このような流れの中、スタンダードチャータード銀行とファルコンXの提携発表は「大手銀行が仮想通貨市場に本腰を入れ始めた証」として市場関係者からも注目されています。
仮想通貨コミュニティからは「機関投資家参入への重要な一歩だ」と歓迎する声も上がっており、伝統金融とデジタル資産業界の融合が進む転換点との評価もなされています。
専門家の間では、今回の提携によって、機関投資家にとって一層利便性の高い市場環境が整うとの見方が広がっています。
今後も銀行業界による仮想通貨ビジネスへの参入拡大が予想される中、この提携が仮想通貨の機関投資家市場にどのような変革をもたらすのか、今後の展開に大きな注目が集まっています。
※価格は執筆時点でのレート換算(1ドル=146.06円)
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Source:スタンダードチャータード銀行公式発表
執筆・翻訳:BITTIMES 編集部
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