ビットコインは今後分裂するのか?歴史と技術から見た全記録
現在「ビットコインが分裂する」と話題になっている原因は、UASF(BIP148)・UAHF(BAHF)・NYA(Segwit2x)のビットコインの運営方法を決定するアプローチが 3種類の存在し、それぞれのポジションを持っている人が、自身の思想と利害関係に基づいて話を進めているからだ。
そのため、政治的な発言や現在技術的にどんな問題があるのかを市場が正確に把握できていないため「今後分裂するのではないか?」と憶測が飛び交っている状態だ。もちろん分裂は、技術的に言えば起こりうる可能性はゼロではない。しかし、ビットコインが現在抱えている問題はそれ以上に「政治問題」と「技術的問題」が、入り混じる複雑な状態だ。
今回の「8.1問題」にしても、一般ユーザーに話題が広がったものの「結局、ビットコインは今後どうなるの?」という一般ユーザーの素朴な疑問は置いてけぼりにされている感が否めず「何がどうして、どうなって、こうなった」までを普通のユーザーが深く理解するには、今のビットコインを取り巻く環境はあまりにも複雑になりすぎた。
なので今回は完全に置いてけぼりにされたユーザーのために「現在のビットコインがなぜこのような事態に陥っているのか?」を重要事象、重要人物を登場させながら今一度、整理したいと思う。
ビットコイン(Bitcoin)思想
現在のビットコインが陥っている状態をお仕えするために、ビットコイン研究開発チームである、Bitcoin Coreの思想を前提条件として共有しておきたい。彼らの思想をたった一言で言い表すのであれば、
「ビットコインの永続性」
である。
彼らBitcoin Coreは、ビットコインのシステムをできるだけ長い間運用し続けたいと考える。そのために「徹底したリスク回避」を行う。「徹底した安全性の確保」と言っても良い。これがBitcoin Coreの根本的な思想である。
ビットコイン(Bitcoin)にまつわるエトセトラ
最近話題に上がっている「ハードフォークをするか否か?」に関しても「ハードフォークをするとビットコイン崩壊のリスクがあるんじゃ無いのか?」というBitcoin Coreの思想と照らし合わせれば、なぜ争点になっているかがわかる。しかし、今起きている問題は「リスク回避」だけの問題では無くなっていること事態が問題になっている。
上記の話は思想を中心とした運用、「理想の状態」であって、現在のビットコインコミュニティは政治色が強くなってしまったためにそこからかなり逸脱している状態のようだ。詳細を書きに記す。
ビットコイン(Bitcoin)の今後を左右する論争の歴史
時はさかのぼること 2014年10月。
当時すでにビットコインのトランザクション(取引データ量)が大きくなることで、今のビットコインのブロックサイズでは容量が足りなくなり「取引が承認されない。」などの問題が発生することが予測されていた。
この問題の解決案として Gavin Andreesen(ギャビン・アンドレセン氏)から提案されたのが「 Scalability Roadmap(スケーラビリティ・ロードマップ)」だった。
彼の案は「ブロックサイズを大きくして対策する。」というシンプルなものだが、この案を実行するにはフォークが必須になるが、当然フォークにはリスクが伴う。
今日まで続く全てのスケーラビリティ論争はここから始まっている。
BIPとは?
スケーラビリティに関する提案、ビットコインのシステムに関する提案をまとめて「BIPXXX」と呼んでいる。最近よく目にする「BIP148」や「BIP149」とは、簡単に言えば「ビットコイン改善案 NO.148」という意味だ。
BIPは「Bitcoin Improvement Proposals(ビットコイン・インプルーブメント・プロポーザルズ)」の略で、直訳すると、ビットコイン(Bitcoin)の改善(Improvement)提案(proposals)となる。ビットコインの新しい機能や情報を導入するための設計書として BIP は活用されている。問題解決のアイディア報告書と言っても良い。BIPは、民主性を重要視するビットコインらしい提案システムだと考えられる。
ビットコイン・ブロックサイズの今後を提案するBIP
2015年6月 〜 2016年1月の間にスケーラビリティ問題対策として様々な提案(BIP)が出された。
スケーラビリティ問題がコニュニティの共通認識になったところで「ビットコインはブロックサイズを拡張すること」は “大前提” になった。
その上で「どうやってブロックサイズを拡張させるのか?」が争点となる。
詳しく言えば「誰」が「どういう方法」でブロックサイズを拡張するのか、であり、この「誰がどういう方法」での部分が今なお続くスケーラビリティ論争の核心の部分になる。
過去の重要なBIP
2015年6月〜2016年1月の期間中にブロックサイズに関する提案はBIP100〜BIP109の10個出されており、その中でも重要なものが、
・「BIP100」
・「BIP101」
・「BIP109」
の 3つの提案だ。これら3つの提案は今なおスケーラビリティ論争の重要な要素となっているので、順番に解説を行なっていく。
BIP100とは?
BIP100 は 2015年6月に提案され、2015年12月にBitcoin Unlimitedとして運用される。
BIP100 の内容は「ビットコインのブロックサイズはマイナーの投票によって決定される。」というものだ。
細かい提案内容としては、約 3ヶ月ごとに投票を行い、一度の投票で最大 2 倍・最小 2分の一までサイズが変更可能となっている。最大ブロックサイズは 32MBでスタートしているが 64MBの案も出ている。
BIP101とは?
src="https://bittimes.net/wp-content/uploads/2017/07/bitcoin-fork03.jpg" alt="" width="100%">
BIP101は2015年6月に提案され、2015年8月にBitcoin XTとして運用される。
BIP101の内容は2036年まで 2年ごとにブロックサイズを「計画的に増加」させるという案だ。(現在は 32GBまで引き上げる案もある。)
1ブロックの容量が8GBというと大きすぎるという声もあるが、ビットコインの将来性とムーアの法則に照らし合わせて考えれば、さほど大きな数字でないことがわかる。※ムーアの法則…インテル創業者のゴードン・ムーアが唱えた「半導体の集積率は 18か月ごとに 2倍になる」という経験則。
BIP109とは?
BIP109は2016年1月に提案され、2016年1月にBitcoin Classicとして運用される。
ブロックサイズを「とりあえず2MB」にするというもので、オンチェーン・スケーリングになるため最低でも1回のハードフォークを必要とする。
コードを1行だけ変更すれば良い点と将来的に新たな機能を盛り込んでいくことを発表している。
Segwitの誕生(BIP141)
2015年12月。
Bitcoin XTがリリースされコミュニティに混乱を招いたこともあり、香港にて第2回スケーリング・ビットコイン会議が行われた。この会議で、現在まで続くスケーラビリティ問題の中心となるSegregated Witness(セグレゲイテッド・ウィットネス)通称Segwit(セグウィット・BIP141)が登場した。
Segwit を採用するメリットは大きく分けて2つ。
・ビットコインブロックにある電子署名部分(Sctipt Sig)を他のデータベースで管理することでブロックサイズを理論値で 4分の1 (実質2分の1)に圧縮する。
・トランザクションのマリアビリティ問題の解決(取引データに柔軟性を持たせ、ビットコイン取引データの一部運用をその他のシステムで可能とする。)
マイクロペイメント、ライトニングネットワークなどはこの「その他のシステム」に当たる。
簡単に言えば「ビットコインブロックチェーン以外で一部データを運用する」ということだ。(もちろんその分リスクは大きくなる。)
導入には全マイナーの 95%の同意(あくまで指標)が必要だが、Segwit の誕生により、ビットコインのスケーラビリティ問題は解決に向かったかと思われた。
ビットコイン(Bitcoin)論争の過去と現在のSegwit2xまで
2016年11月。Segwit の運用が本格的にスタートしたと同時に突如、ViaBTC、Bitcoin.com などのマイニングプールが突然Bitcoin Unlimitedのサポートを開始。
この突然のBitcoin Unlimitedのサポート宣言により、Segwit の支持率は30%で停滞する。
更に、中国各マイナーが続々とBitcoin Unlimitedのサポートを開始し、合計で世界最大のハッシュを持つ Bitmain も支持をすると、Bitcoin Unlimited の支持率は 40%を超えてしまった。
事実上この瞬間から、Bitcoin CoreとBitcoin Unlimitedとの対立がはじまっているのである。
UASFの提案
2017年3月Bitcoin CoreとBitcoin Unlimitedの対立を危険視した Shaolin Fry(シャオロン・フライ氏)がUser Activated Soft Fork(ユーザー・アクティベイテッド・ソフトフォーク、以下 UASF)を提案。(BIP148)
UASFはユーザーネットワークを先立って行い、ユーザーがどのビットコインのトランザクションを利用するかの選択が可能になる。(Segwit のトランザクションを選択するかをユーザーが自由に選択できる。)
UASF はSegwitをサポートしているためSegwitを利用するユーザー数が増加すれば、Segwit をサポートするマイナーのマイニング報酬も増加するメリットがあるため、Segwit をサポートするマイナーが増加する見通しだ。UASF はあくまで、最終的にSegwitの支持率を 95%に到達させる方法ということだ。そして、これを実行する日が「 8月1日」である。
しかし、UASF(BIP148)には「ブロックチェーンが消滅してしまう可能性がある」という危険性がある。詳細はこちらの記事で紹介、修正も行なっているので、今一度ご確認を確認をしていただきたい。
→「ビットコイン分裂の危機、8月1日に何が起きるのか?」
BIP149について
2017年4月Shaolin Fry氏は、BIP149(Segregated Witness Second Deployment)を提案した。
この提案は、シンプルに「Segwitの導入期限を伸ばしましょう。」というものだ。
現状、Segwitの支持率は95%に達しておらず、締め切りの11月15日に間に合わない可能性があるため、期限を伸ばして導入する提案になる。
UAHFの提案
2017年6月UASF発表後、最大のマイニングファームの Bitmain 社代表の Jihan Wu(ジハン・ウー氏)がUASFのリスクを回避するために UAHF を発表した。ブロックサイズを2MBに設定して 8MBまでのブロックサイズを受け入れるという提案である。
UAHF は、ソフトフォークではなく、完全に別のチェーンを作るハードフォークをユーザー主導で行うというものだ。もちろん、ハードフォーク後にはビットコインは完全に分裂し、2種類のビットコインが誕生する。更に、UAHFを支持しているのは、Bitmain社だけなので、Jihan Wu氏は、分裂したビットコインをBitcoin Unlimitedにしたいのではないかと考えられる。
Segwit 2x(Segwit 2MB)とは?
2017年6月UASFによって巻き起こるチェーン分裂リスクを回避するためにSegwit2x を Barry Silbert(バリー・シルバート氏)が提案し、ニューヨーク協定(NYA)の指示を受けている。
Segwit 2x の提案内容は「BIP91を使用することで、Segwit 導入に必要な支持率を 95%から 80%に下げ、なおかつ BIP102 を使用しブロックサイズも半年後に 2MBにする。」というものだ。
現在、NYA(Segwit 2x) に合意した事業者は 50社を超えており、ハッシュレートも 87%に到達していることからも採用される可能性が非常に高い。リリースは 7月21日を予定している。
ビットコインスケーラビリティ問題の全貌
以上、スケーラビリティ問題の歴史を振り返った上で、現在のビットコインを取り巻く提案は、UASF・UAHF・Segwit 2x の 3種類ある。
ちなみに各提案をまとめると相関図は下記のようになるので、ぜひご確認していただきたい。
今回の一件をまとめると、遅々として進まないスケーラビリティ問題を解決するために「UASF」が提案された。
UASF は、8月1日にスタートすることが決定されている。
しかし、同時にブロックチェーンデータ消失のリスクが存在する。
そして、UASFを回避するには「UASF後にハードフォークで強制的に 2つに分裂させる」もしくは「 8月1日より前に他のSegwit案を実行」しなければならない状態になった。
マイナー側(Bitmain)は回避するために「ハードフォークで強制的に 2つに分裂させる」手段として「 UAHF 」を発表し、
NYA は「Segwit2x 」を「7月21日」に実行することを決めたのだ。
ただし、UAHFはSegwit2xが採用されたからといって、ハードフォークを行うかどうかは現状不明の状態だ。
事実、Jihan Wu氏は「NYAの提案もリスクがある。」と発言しているので、あくまで"一時的"なポジションを取っていると思われる。
これが現在のビットコインを取り巻く相関関係になる。
ビットコイン今後のシナリオ
以上を踏まえた上で、ここから考えられるビットコインのシナリオは
・UASF(BIP148)の導入
・UAHFによるハードフォーク
・CoreとNYA間でハードフォーク
・Segwit導入
4通りが考えられる。
もし、Segwit 2xが7月21日に間に合った場合、支持が87%集まっていることからも、7月21日からSegwit2xが通る(ロックインする)可能性が高い。これによってSegwitの期限である今年の 11月まで最終判断が先延ばしになる。
もちろん、Segwit 2xのコードが酷すぎる場合は、UASFへと向かい。その後、UAHFが起きる可能性もある。
ロックインされた場合は「その間にSegwitが採用されるか否か?」に注目が集まる。
ここでも、さらに議論が交わされるが情報を見る限りでは「ハードフォーク無しのSegwit導入」の可能性が高めではないかと思われる。
どちらにせよこの件については、7月21日と 8月1日とそれ以降の動向を見守り続ける必要があるので、続報があり次第追記したい。