ブロックチェーン「ID管理システム」で建設現場の業務改善|スイス連邦鉄道(SBB)
スイス連邦の国有の鉄道事業者である「SBB」は、鉄道路線で働く従業員の資格認定のために利用されるブロックチェーン技術を用いた「ID管理システム」の概念証明(PoC)を完了したことを報告しています。非常に多くの建設現場と作業員を抱えているSBBはイーサリアム(Ethereum/ETH)の特性を活かしたアプリケーションによって多くのメリットを生み出しています。
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現場作業員の「情報管理」を合理化
スイス連邦鉄道(SBB)が行なった「ブロックチェーンID管理システム」の概念実証は、ブロックチェーンをベースとした情報管理システムを導入して、従来使用されていた紙ベースの情報管理システムを改善することなどを目的として2018年5月〜11月にかけて行われました。
SBBは、同社ネットワーク上の建設現場には第三者が関わってくることが多いため、安全上の理由から従業員の資格に関する厳しい要件があると説明しており、スイスの何千もの建設現場で3万人以上の従業員を雇っていることを報告しています。
これらの現場には、異なる建設会社や請負業者の数多くの労働者がいるため特定の作業を行うためには適切な資格を持っていることを証明する必要があり、会社側はそれぞれの現場でいつ誰が作業を行ったのかを追跡できるようにする必要がありました。
SBBは、ブロックチェーン技術を活用したID管理システムを導入することによって、建設現場に関わる人々の管理を合理化するとともに、それに必要となる経費の削減にも成功しています。
デジタルIDを管理する「uPortアプリ」
SBBが導入テストを行なったソリューションは、ConsenSys(コンセンシス)の傘下である「uPort」のオープンソース技術が使用されており、ブロックチェーンのスタートアップ「Linum Labs」によって開発されています。uPortのオープンソース製品はライセンス料なしで使用することができるようになっており、イーサリアム(Ethereum/ETH)のテストネットで機能しています。
従業員は自分のモバイル端末で「uPortアプリ」のデジタルIDを作成して承認を受けることによって、適切なトレーニングを受けたことを証明する「証明書」の発行を受けることができます。デジタルIDを取得した作業員は、自分自身の携帯電話にインストールした「uPortアプリ」でQRコードのスキャンを行うことによって、建設現場に出入りする際の承認を受けることができます。
「uPort」を使用することによって、鉄道労働者、認証機関、監督者はそれぞれの「uPort ID」に紐づけられた独自のデジタルIDを持つことができるようになっており、それらのIDはブロックチェーン上に記録されることになります。作業員のチェックイン/チェックアウトの履歴はブロックチェーン上で公開されるようになっているため、これらの履歴は改ざんの心配もなく、容易に監査することができるようになっています。
鉄道会社による「仮想通貨発行」
ブロックチェーン技術はその他の鉄道会社でも導入されています。ロシア鉄道(RZD)は、車両の車輪の修理に関する情報をブロックチェーン上で管理することによって、修理状況に透明性をもたらし、修理時間や関連コストを削減するためのプロジェクトに取り組んでいます。
RZDは長期間にわたってブロックチェーン技術に関する取り組みを行っており、同社のCIOであるエヴゲニー・チャルキン氏は、法的整備が整えば乗車券の購入に仮想通貨が使われるようにもなるだろうと語っています。
また日本の「近鉄グループホールディングス」と「三菱総合研究所」は、2018年10月1日から12月10日にかけて、ブロックチェーン技術を活用したデジタル地域通貨である「近鉄ハルカスコイン」の実用化に向けた2回目の社会実験を実施しています。ハルカスコインは1コイン=1円となっており、実験店舗での買い物などで使用できるものとなっています。
建設業界における「ブロックチェーン」の有用性
Linum Labsは、ブロックチェーンで個人のアイデンティティを管理するするシステムが建設業界などでのユースケースによく適していると説明しています。
イーサリアム・ブロックチェーンをベースとしたアプリケーションで情報を管理すれば、現場に出入りする人々や具体的な勤務時間を合理的に管理することができるようになり、従業員は特定の企業だけなくその他の企業でも自分のアイデンティティを持ち越すことができるようになります。また企業側も従業員の情報を所有したり管理する必要もなくなるため、個人情報の取り扱いなどに関するトラブルを回避することにもつながります。
SBBが行なった今回の取り組みは「デジタルID」と「パブリックブロックチェーン」を組み合わせることによって多くのメリットを生み出すことができることを証明しています。パブリックブロックチェーンを使用することによって、料金を安く抑え、信頼性を向上させることができます。
ブロックチェーン技術は建設業界における複雑な問題を解決できる可能性を秘めているため、日本でも導入が始まっています。東京都千代田区に本社を構える前田建設工業は、建設現場で取り扱う重要な機密データを安全に管理するために、分散型台帳技術を試験導入したと伝えられています。
建設現場の情報管理や車両のメンテナンス、独自の仮想通貨など、幅広い分野で活用されているブロックチェーン技術は今後も鉄道業界でも広く普及していくことになるでしょう。