3Dプリンター×ブロックチェーンがもたらす「製造業のデジタル変革」発展の鍵は分散型管理
ブロックチェーン技術は様々な分野で採用されつつあります。一方で、設計データを元に立体モデルを作成できる「3Dプリンター」も新しい技術として同様に注目を浴びていますが、現状として「データがハッキング等により流出や盗難にあう可能性」「製作物の知的財産権や著作権の保護」などと言った課題点も浮き彫りとなっていました。しかし、ブロックチェーン技術を3Dプリンターに実装させる事によりこれらを解消できると期待されています。
こちらから読む:3Dプリンターの問題解決に役立つ「ブロックチェーン技術」とは
注目のIoT機器「3Dプリンター」が抱える課題
2013年にドイツが「Industry4.0(第4次産業革命)」と呼ばれる技術戦略を提唱して以降、製造業を中心に様々な業種が「自動化/データ化」に向けて取り組んでいます。AIやロボットなどの最先端技術により"産業の総ネットワーク化"を目指そうとするこの取組みの核となるのは「IoT(モノのインターネット)」と言われています。
「IoT」を実装すれば、あらゆるモノをインターネットに繋げることができるようになり、リアルタイムな情報共有、ロボットによる業務自動化ができるようになりますが、その中で主役になると注目されているのが「3Dプリンター」です。3次元ソフトウェアで作成されたデータを元に立体物を印刷できる「3Dプリンター」は、製造業だけでなく「医療/宇宙/航空業界」など幅広い分野で活用されはじめており、個人で創作を楽しむ人も増えてきています。
しかしその一方では、
・セキュリティの脆弱性によるハッキング
・悪意ある人物による企業の3Dプリントの機密データ流出の可能性
・レプリカの作成
なども気軽に行うことができるようになってしまうため、著作権や知的財産権の保護と言った課題点も浮き彫りとなっていました。
現状、3Dプリンターを使用する場合には膨大なデータやファイルなどの出力や変換などといった幾つかの複雑な過程を経て印刷されます。過程が多岐に渡るほどセキュリティの脆弱性が高まるため「悪意のある何者かによるハッキング」や「故意にデータを書き換え企業に損害を与える」などの危険性があります。
ブロックチェーン実装が問題解決の鍵?
3Dプリンターを積極的に活用していくためには、解決すべき複数の課題が残されていますが、ブロックチェーンの技術を3Dプリンターのネットワークに実装すれば、これらの課題点を解決し今までよりもさらに普及が進むと言われています。
ブロックチェーン技術を使用すれば、特定のサーバーを必要とせず分散化された状態で管理することができるためデータの改ざんを防ぐ事ができます。またハッキングにより一部のシステムが機能がしないと言った場合でも、システム全体が停止する事が無いためリスクを軽減する事も可能となります。
「3Dプリンターとブロックチェーン技術を組み合わせる」というアイデアには、すでに複数の大手企業が着目しており、現時点でも幾つかの計画が明らかにされています。
印刷物の偽造問題に対処|General Electric
米大手コングロマリット企業の「GE(General Electric/ゼネラル・エレクトリック)」社は、サプライチェーンにおいて3Dプリンターで製造された印刷物が本物であるかを検証するためにいち早くブロックチェーンの利用を検討しています。
これは2017年に米国特許商標庁が特許申請書を公開した事により明らかになったものであり、ブロックチェーン技術を用いて3Dプリンターで作成された印刷物を追跡し、製造プロセスを認証するデータベースの構築を目指すものとなっています。また製造プロセスをブロックチェーン上で管理する事により、不具合が生じた場合にどの工程で問題が発生したかなどの把握にも役立つとしています。
3Dプリンターの出現により、工場などを持たなくても個人で製品を印刷する事が可能となりました。しかし、これによって"正規品のレプリカ"なども簡単に作れるようになったため「著作権やライセンスを持たない人物・企業」が作った偽装品が流通してしまうことが懸念されています。またこれらの偽造品は精度も高いため、印刷物の真贋判定(*1)も極めて難しくなると考えられます。
(*1)真贋判定:本物か偽物かを判断すること。
ブロックチェーンのスマートコントラクトを実装すれば、データやファイルなどの取引履歴、製造工程におけるトランザクションを管理・確認する事ができるため、製造プロセスやどこで印刷物や部品が製造されたかなどの追跡も可能となり、偽装品の流通を防ぎ知的財産権や著作権の保護にも役立つと期待されています。
「3Dプリンターの分散型工場」を設立|Politronica
イタリア・トリノ工科大学から分離し新設された企業「Politronica(ポリトロ二カ)」社は、世界中の3Dプリンターをブロックチェーンで繋いだ分散型工場の設立を目指しています。この工場では、ジャストインタイムと呼ばれる「必要なものを、必要なだけ、必要な時に作る」方式を採用し、生産コストや人件費の削減が見込まれています。
同社が提供するブロックチェーン・ネットワークは「Network Robot Workforce(ネットワーク・ロボット・ワークフォース」と名付けられ、3Dプリンターによるプロジェクトをまとめる役割を果たし、業界間が円滑になる事が期待されています。
また、ネットワーク内で取引できる「3DT(3Dトークン)」と呼ばれるトークンを発行し、3Dプリントの関連商品の購入や、クラウドファンディングへの参加が可能になるとされています。
3Dプリンター市場「2022年には2.5兆円規模に」
米市場調査会社「IDC(International Data Corporation)」が1月に発表した調査レポートによると、3Dプリンター業界の市場規模は2022年には227億ドル(約2兆5,000億円)にまで達し、2018~2022年の複合年間成長率は197%になると予想されています。
そのため、将来的には多くの企業が3Dプリンター業界に参入し、製造業だけでなくあらゆるモノが3Dプリンターによる印刷物に置き換わると言われており、その過程ではますます「セキュリティ」や「著作権」と言った問題が取り沙汰されると考えられています。
これらの問題点を解決出来ると期待されているブロックチェーン技術は、これから3Dプリンター業界でさらに注目され、開発促進と業界の成長に大いに役立てられていくと予想されます。今後はこれら2つの新しい技術を融合した企業も増えてくることになるでしょう。