選挙×ブロックチェーン:不正の回避や公約の永久保存・投票システムで激変する世界の政治
ブロックチェーン(Blockchain)を選挙に活用しようとする動きが複数の地域で見られています。暗号化技術を用いた分散型管理の利点は、大統領選挙などでの不正行為を排除できることが期待されています。しかしその一方ではセキュリティ面などへの懸念から批判する声も相次いでおり、依然として多くの議論が交わされています。様々な問題に挑戦しつつ、最先端の技術を積極的に取り入れるための活動を行なっている世界の国々をまとめて紹介します。
こちらから読む:選挙の不正行為を防止できる「ブロックチェーン」の仕組みとは?
ウクライナ:ネム(NEM)のブロックチェーン技術を活用
ウクライナの中央選挙管理委員会は、選挙にブロックチェーン技術を活用することを計画しています。
同委員会は選挙の投票プロセスにネム(NEM/XEM)のブロックチェーン技術を活用するためのテストを行なっており、現在の技術が選挙投票にどのようなメリットをもたらすことができるかの調査が行われています。
ウクライナのNEM財団と協力して行われたこの実験は、テスト用環境とコインで行われており、28ノードを建てて実施されています。テストを実施した結果、ブロックチェーンを活用した投票には1ノードを設置するにつき1,227ドル(約135,000円)相当の費用(XEM)がかかるとの結果が報告されています。
この結果に対して、ウクライナ中央選挙委員会のOleksandr Stelmakh(オレクサンドル・ステルマク)氏は、「技術に支払う費用としては少額である」と述べており、ブロックチェーンの有用性についてはFacebook上で『情報の改ざんを行うことができないことだ』と説明しています。
ウクライナでは、2004年の大統領選挙で不正行為が行われています。
この時の選挙では約11,000件の不正行為が行われていたことが選挙後に発覚しており、ウクライナ国内に大きな混乱を巻き起こしました。これによって同国は一時的に分裂の危機にも瀕していたため、選挙での問題に対してより慎重に取り組んでいると考えられます。
多くの人々がステルマク氏がFacebookに投稿した内容にコメントしており、それらの取り組みを賞賛しています。多くの市民は選挙のデータが不正に変更される可能性が低く、不正選挙を排除できる可能性があることに感動していると伝えられています。
ケニア:ブロックチェーン技術を活用するための選挙改革
ケニアの独立選挙・区割委員会(IEBC)は、これまでの大統領選挙で多くの死亡者が出ていることなどを受け、選挙を透明性のある安全なものにするためにブロックチェーン技術を活用するための選挙改革を行なっています。
2007年のケニアの大統領選挙では、与野党の支持者たちによる大規模な暴動が発生しており、その結果1,100人を超える死亡者が出ています。ケニアの大統領選挙では投票結果の改ざんや不正行為を指摘する声が頻繁に報告されているため、ブロックチェーン技術を用いた新しい投票システムに大きな期待が集まっています。
ケニアの大統領選の詳細はこちら
ロシア:ブロックチェーン「電子投票システム」
ロシアの一部の地域でも選挙にブロックチェーン技術を取り入れるための試みが開始されています。
独立系選挙監視団体である「National Public Monitoring(NOM)」は、すでにブロックチェーンを活用した『電子投票システム』の開発に取り組んでおり、実際にテストも開始していることを明らかにしています。
詳しい情報については明らかにされていないものの、実施されたテストには300人ほどの立会人が参加し、公共団体も含めた様々なグループも参加していたと報じられています。
ロシアの『電子投票システム』の記事はこちら
アメリカ合衆国:ブロックチェーン「投票アプリ」
ウェストバージニア州
アメリカ合衆国の東部に位置するウェストバージニア州は、ブロックチェーン技術を活用した投票アプリを11月に行われる連邦議会選挙に導入する方針を明らかにしています。
この方法を採用することによって、軍隊の任務などによって海外に駐留している人々も選挙に参加して投票を行うことができるようになるとのメリットが挙げられている一方、『ロシアが米国の選挙に干渉している』という疑いが囁かれている現状で「スマートフォンを用いた投票を採用するのは恐ろしい考え」と指摘する声も出ています。
この投票用アプリは、ボストンに拠点を置くアプリ開発企業であるVoatz(ボーツ)が開発しています。
このアプリでは、顔認証ソフトを使用してユーザーがアップロードした「政府発行ID」とセルフィースタイルで撮影した「顔の動画」の照合を行います。照合して承認が得られた場合にのみ投票することが認められ、それらのデータはユーザーの匿名性を保護するために暗号化され、ブロックチェーン上に記録されることになります。
ウェストバージニア州の州務長官であるMac Warner(マック・ワーナー)氏は、これらのシステムを4回に渡って監査した結果「クラウドやブロックチェーンを含めて問題はなかった」と説明しています。
しかし、アプリを使用するのは海外に派遣されている軍人に限定されるとのことで、11月の中間選挙で実際に使用するかどうかの最終決定は、それぞれの郡に委ねると説明されています。
また、このアプリは従来の投票を置き換えるためのものではないことも強調されており、選挙では依然として「紙の投函」ができるとも説明されています。
ウェストバージニア州の「投票アプリ」の記事はこちら
仮想通貨の寄付金を受け入れる政治家
選挙に立候補している候補者の中には、選挙活動の寄付金を仮想通貨による送金で受け入れている政治家もいます。
Andrew Yang(アンドリュー・ヤン):米国大統領候補者
2020年の米国大統領選挙に立候補している民主党のAndrew Yang(アンドリュー・ヤン)氏は、ビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)、ERC20トークンなどでの寄付金を受け入れています。
同氏は『ベーシックインカム(*1)を導入すべき』とも考えており、米国に住む全ての大人に月額1,000ドル(約11万円)の普遍的な基本所得を配布すべきだとも主張しています。
(*1)ベーシックインカム:すべての国民が最低限の生活を送るために必要なお金を政府が定期的に支給する政策
アンドリュー・ヤン氏の記事はこちら
蕭新晟(Hsiao-Chen):台北市議会候補者
台湾の台北市議会の候補者である蕭新晟(Hsiao-Chen)氏は、政治献金を受け入れた「台湾初」の候補者となりました。
同氏は匿名の人物から総額325ドル(約36,000円)にあたる額のビットコイン(BTC)を受けとったことを発表しており、仮想通貨での政治献金を受け入れるようにすることで台湾の政治システムをより健全な状態に保つことができると述べています。
仮想通貨も積極的に受け入れる姿勢を見せている同氏は、台湾をブロックチェーンのリーダーにすることを目指しています。
蕭新晟氏の記事はこちら
ブロックチェーンの技術は、金融業界だけでなく選挙のような国家規模の活動にも導入されようとしており、その他にもスポーツ業界や宇宙開発などといった、様々な分野でも導入が進んでいます。それらの分野での活用事例も別の記事で紹介しているので、こちらの記事も合わせて読んで見てください。